Nicotto Town


人に優しく。


まあ気の毒に


ね、ワーニャ伯父さん、生きていきましょうよ。

長い、はてしないその日その日を、いつ明けるとも知れない夜また夜を、じっと生き通していきましょうね。

運命がわたしたちにくだす試みを、辛抱づよく、じっとこらえて行きましょうね。

今のうちも、やがて年をとってからも、片時も休まずに、人のために働きましょうね。

そして、やがてその時が来たら、素直に死んで行きましょうね。

あの世へ行ったら、どんなに私たちが苦しかったか、どんなに涙を流したか、どんなにつらい一生を送って来たか、それを残らず申上げましょうね。

すると神さまは、まあ気の毒に、と思ってくださる。

その時こそ伯父さん、ねえ伯父さん、あなたにも私にも、明るい、すばらしい、なんとも言えない生活がひらけて、まあ嬉しい! と、思わず声をあげるのよ。

そして現在の不仕合せな暮しを、なつかしく、ほほえましく降返って、私たち——ほっと息がつけるんだわ。

わたし、ほんとにそう思うの、伯父さん。

心底から、燃えるように、焼けつくように、私そう思うの。





ー 『ワーニャ伯父さん』 アントン・チェーホフ ー




 




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