小さな度
- カテゴリ:小説/詩
- 2022/06/15 10:19:34
ある日の夕方
とっさに遠くに行きたくなった
簡単な手荷物を持って
地下鉄の駅に急いだ
電車がちょうど出たところ
待ち時間が8分
私は何をしているんだろう
どこに行こうというのだろう
自分で自分が分からなくなった
駅から立ち去った
この8分がなかったら
私はどうしていたのだろう
下をうつむいて歩いた
自分が情けなかった
こんな事もできないなんて
帰り道にカフェに立ち寄る
なんて情けないんだろう
あの人を振り切るために
こうして出てきたはずなのに
そんな事さえできなかった
あの人はどうしているだろう
こんな夕暮れの中で
誰かと一緒にいるのだろうか
一人で遠くを見ているのだろうか
もう私には関係ない
私は振られたのだろうか
私が振ったのだろうか
そんな事はどうでもいい
今はあなたがいないという事
ぽっかり空いた私の胸
隙間風が冷たい
温める人はいない
あなたしかいなかった
あなただけが拠り所だった
でももうあなたはいない
家に帰ろう
真っ暗な家に
灯を灯す人はいないけど
あなたと過ごしたあの部屋に
私は戻るしかない
いつか忘れるのだろうか
その日は来るのだろうか
失ったばかりの心には
そんな事さえわからない
灯も灯されない部屋の中では