『ホームドアから離れてください』
- カテゴリ:小説/詩
- 2022/07/11 23:25:22
少し前から表紙とタイトルに惹かれてて、買おうか迷っていた小説。ずっと自衛隊関連のものを読んでいたから、たまには毛色の違うものを買いたいなと思って、購入に至った。
作者の北川樹さんは、なんと1997年生まれ。早稲田大学在学中に、本作品でデビューを果たしたそうな。
読み進めていく中で、文章表現や構成、どれを取っても3つしか年が離れていないなんて、はたまた、これがデビュー作だなんて信じられなかった。
裏表紙の梗概には、こう書かれている。
親友のコウキがマンションのベランダから飛び降りた。そして、僕は学校に行くのをやめた。引きこもっていたある日、新聞記事で「空色ポスト」の存在を知る。新宿御苑にひっそり置かれている、手紙ではなく写真を運ぶポストだ。外の世界へ踏み出した僕は、写真を通じて親友の意外な真実を知り――。人との距離感に迷いながら懸命に生きる、友情の物語。
これを読んで、まず「親友が死んでしまった」「親友の死がきっかけで不登校になる」「空色ポストによって転機が訪れる」という情報を得た。それらを元に読み始めたのだが、冒頭一文、主人公の父が発した一言で、情報が一気に書き換えられた。
「コウキくん、新しい学校で、元気にやっているらしい」
あれ!?死んでない!?
確かに、「飛び降りた」と書いてあっただけで「死んだ」とは書かれていなかった…!
でも、なんだか様子がおかしい。
その父の一言がきっかけで、主人公の機嫌が悪くなっていく。
なぜ、元気であることがイヤなのか。コウキが飛び降りた理由はなんだったのか。沸々と湧き上がる疑問兼好奇心を胸に、どんどんページをめくっていった。
コウキと、主人公改めダイスケは中学校の部活の同期だった。取り柄が欲しかったコウキと、強くなりたかったダイスケが選んだ部活は、柔道部。しかし、彼らはどれだけ練習を重ねても、周りの上級者に追いつくことができず、二人は「初心者コンビ」と呼ばれていた。
彼らを気にかけてくれる先輩らのもとで、二人は切磋琢磨していくが、大会出場権を争う部内戦で1年生にレギュラーを奪われたオオハタ先輩。これを境に、どんどん「日常」が崩れていった――。
ダイスケとコウキの距離が次第に離れていく様子が、胸が痛くなるほど丁寧に描かれていた。なぜコウキが飛び降りようと思ったのか。その理由は、「伏線を回収する」というより、ダイスケの記憶を共に辿り、まるで「思い出した」かのように知ることとなった。
第一章、「オンコチシンについて」を読み終わった時、すっかり「空色ポスト」のことを忘れていた。それくらい、「オンコチシン」の内容が濃かった。
人物の心情と行動を上手くリンクさせた文章表現は、『私たちは銀のフォークと薬を手にして』を読んだ時も「すごいなぁ」と感心してしまった技巧だ。
第一章の終盤。オンコチシンを終えたダイスケは、伸びきった髪の毛に自分で鋏を入れていく。
「はらりと落ちた髪の毛の感触を、足の甲が受け止める。気持ちが悪い。でも、気分はいい」
こういった、繊細でかつ複雑な心情を、絡んだ糸を一本一本丁寧に解いていくように描写してくれるから、頭の中で彼らは活き活きと動いてくれるし、感情移入もしやすい。
大学生でこんな文章を書けるなんて、本当にすごい。私にはあと10年掛かっても無理かもしれない。世の中には、いろんな才能を持った人がゴロゴロいるんだな。
もちろん、第二章の「空色ポストをめぐって」、第三章の「三年後」も素晴らしい。タイトルの、一見関係なさそうな「ホームドア」がどのように関わってくるのかも読みどころであり、ダイスケとコウキの「10年来の再会」も、グッときた。でも、私的にはやっぱり第一章が一番好きだったなぁ。
北川さんのこれからに、期待です





























