珈琲ゼリー
- カテゴリ:自作小説
- 2022/08/21 19:00:28
夕飯の片付けが終わり、母が珈琲を落とし始めた。珈琲サーバーがコポコポと音をたてはじめると、キッチンから香ばしい匂いが漂ってきた。父はソファーから立ち上がると、冷蔵庫からシャトレーゼと印字された紙箱を取り出した。
父は、金曜日の仕事帰りに、シャトレーゼでスイーツをお土産に買って帰る。お小遣いの少ない父が、ケーキを買うことは滅多にない。和也が、リビングのテーブルに置かれた紙箱を開くと、珈琲ゼリーが二つとプリンが一つ入っていた。
和也は、ビニールを破り小さなプラスチックのスプーンを取り出し、プリンをすくうと口に運んだ。すぐにとろけて甘さが口いっぱいに広がる。美味しい。ちっとも甘くない珈琲ゼリーを好きな父と母の味覚はおかしいと思う。
「ママ、珈琲と珈琲ゼリーは、かぶっていると思うんだけど。」
「あなた、回転ずしに行って、赤身のあと、中トロ取ろうとしたら、かぶってるって言われたことあるの?うなぎ屋で、うな重と、う巻きや肝吸いを頼もうとしたとき、被っているって言われる?ないでしょ。」
父は、無言になり、珈琲を飲みながら珈琲ゼリーを食べ始めた。食べ終わると、和也に話しかけた。
「月曜日、全校登校日だろ。宿題は終わっているのか。」
「まだ、10日もあるし、終わっているわけないじゃん。」
「お隣の美代ちゃんのお母さん、夏休みの宿題、終わったって言ってたわよ。」
和也は、無言になりプリンを食べた。美代は、和也と同じ小学6年の同級生。4年生の時に、隣に引っ越してきた。お隣さんだが、美代の家に遊びに行ったこともなく、学校で話したことも何度かあるだけだった。
母は、珈琲カップを皿に戻すと、父に話しかけた。
「美代ちゃんのところは、この前、沖縄に旅行に行ったでしょ。それまでに、宿題を終わらすようにって、お父さんが言っていたんだって。うちは、何年も旅行に行ったことがないわね。」
「まあ、コロナも流行っているし、家にいたほうがいいよな。今年は、異常に暑いし、家にいた方が涼しくていいだろ。そうだろ和也。」
「海に行きたい。」
父は、無言になり、珈琲カップを皿に戻すと、小声で和也に言った。
「ママに怒られるまえに、早く、宿題を終わらせなさい。」
和也は、子供部屋に戻り、ベッドに寝転がって漫画のページを開いたが、直ぐに閉じた。登校日が待ち遠しくて、じっとしていられない。心がボールのように弾む感じだ。男子とは、夏休み中も一緒に遊ぶことがあるけど、女子とは、学年登校日から会っていない。
引き出しを開けて、クラスの集合写真を取り出した。一番前の列に、体育座りをした陽菜が微笑んでいる。目鼻立ちがはっきりとしていて、美形という表現が合う。二番目の列には、中腰になった莉子が微笑んでいる。色白で、瞳が大きくて可愛いらしい。
陽菜は、勉強ができて物静か。莉子は、陽気で人気者。タイプは違うが、クラスの男子の人気を二分している。和也少年の心に小さな疑念が巻き起こった。クラスの男子のほとんどが、陽菜か莉子のどちらかが好きだ。和也は、どちらかと言えば、どっちも好きだ。
将来、二人と結婚できるのは、男子二人しかいない。どうなるんだろうと思ったが、大人は、みんな結婚している。どうしてと思ったが、答えは見つからず、いつの間にか寝てしまった。
遠足の日のように、学年登校日は、朝早く目覚めた。陽菜や莉子に会いたくて、早く学校に行きたい。そんな風に思っていたのに、学校に着いたら、いつものように、賢治や基次郎とバカ騒ぎをしてしまった。
よりによって、学年登校日に日直の当番が当たっていた。女子の日直は、美代だった。クラスメートが帰ったあと、学級日誌を書いていた。美代が書いて、和也は、手持無沙汰にしていただけだった。日誌に視線を落としたまま、美代がしゃべった。
「真っ黒に、なっちゃったでしょ。」
「いいじゃん、海に行けて。俺、どこにも連れて行ってもらってないし。」
「肩なんか、皮がむけそうよ。ほら」
美代は、ブラウスの袖口をまくった。袖口から先は、小麦色に焼けていて、肩口は、少し赤みがかり、水着の跡が残っている。和也は、心臓がドキンと鳴ったような気がした。陽菜や莉子とは違う。陽菜や莉子は、アイドルに憧れるような感じだったが、美代には、異性を感じた。
「早く、日誌書けよ。」
和也は、美代が書き終わった日誌を担任に届けると、じゃあなと言って、走って家まで帰った。
自分の部屋に入り、ベッドに寝転がっても、心臓がドキンドキンと鳴ってるように感じた。机の引き出しから、クラスの集合写真を取り出した。二列目の莉子の隣に、うつむき加減の美代が写っている。一緒に帰ればよかったと思ったけど、賢治や基次郎に見られたら恥ずかしい。写真の中の美代ばかり見つめていた。
登校日って楽しい。どうして夏休みに登校日ってあるんだろうと和也は考え始めた。美代ちゃんに会うためかな~と呟いたら、急に恥ずかしくなって、布団にもぐり込んだ。
夕飯を食べていると、父が、ゴーヤチャンプルーを食べながら話し始めた。
「和也、登校日、どうだった。みんな宿題、終わってただろ。」
「賢治や基次郎も、まだ、終わってない。」
「ゴーヤチャンプルー食ったら、苦くてしかめっ面するなら分かるけど、なんで、にやにやしているんだ。」
「してないよ。」
「あと、10日しかないんだから、ちゃんと宿題やれよ。」
「分かってるよ。夏休みに登校日って、何であるの。」
和也の父は、少し考えてから、話し始めた。
「昔は、給料は振り込みでなくて、お金が入った給料袋を渡されていたんだ。先生、夏休みに給料を取りに行かないといけなかっただろ。先生だけ登校しても、暇だから、生徒も登校させたんじゃないか。それに、先生だけで、学校の掃除したくないだろ。」
今日一日、ワクワクドキドキした気持ちで満たされていたが、急に現実に引き戻され、和也は、夏休みの宿題をしなきゃと思いはじめた。
※作者注
前半の珈琲ゼリーの話は、なんなんだと疑問に思う読者もいるかもしれないが、当初は、大人になると珈琲ゼリーの美味しさが分かるようになる。子供の頃は、みんなプリンやシュークリームが好きだけど、大人になったら、好みが人それぞれになる。いつまでたっても、みんなが言うからという他人の価値観に流されてはだめだという格調高い教養小説の予定であったが、書いているうちにすっかり忘れてしまった。
スタッドレスは、柔らかいのと燃費が悪くなるので、みなさん、履き替えてます。最近は、タイヤ屋やディーラーにタイヤを預けて、交換してして貰う人も多くなっていると思います。マンションだと、置場をとってしまいます。
北海道は「生まれた土地」と違って、車は冬用⇔夏用タイヤ交換してますよね?
私も家族で交換します(メンドウ)(-.-)
夜行バスでスキーに行ったことはありません。雪が降らないところで生まれたので、スキーもスケートもへたくそです。今の若者は、ボードだと思います。スキー場は、子供にスキーを教える家族連れが中心になっているのではないでしょうか。ニセコとかは、お金持ちの外国人が主流では。
私、流行に乗って何度か行きましたが・・・続きません。
スキーが好きな人は子供連れて行ったり、孫連れて行ったり・・・そんな話聞くけど
どうですか?周りはスキーをしてそうですか?
スノボかな?
高松商業が残っている間は見ていました。しかし、ベスト8で負けた瞬間、関心がなくなってしまいました。オリンピックと一緒で、普段は関心のないスノーボードや男子リレーを見てしまうのと一緒です。
私はオリンピック以外、ほぼスポーツは見ません(-.-)
キャリア官僚がつまづいたら、辞任も辞職も一緒でしょう。しかし、能力が高いでしょうから、再就職先も問題ないと思われます。畿内から見たら、長万部は北の果てだと思います。白川の関の向こうは、大和ではありませんでしたので。
今日は「辞任」「辞職」・・いままで何の気なしに聞いてて、区別してなかったけど
違ったんですね?検察庁長官と奈良県警の鬼塚友章本部長
鬼塚友章本部長は階段を上る途中で「大阪は・・・何かあるかもしれないし、奈良なら何もないだろうと」
大事に育てられてたらしいけど、階段踏み外したみたい(-.-)
北海道 長万部 ( おしゃまんべ ) 町の 飯生 ( いいなり ) 神社の敷地内で突然水が噴きだし、噴出を続けている。
おしゃまんべ・・・と、聞けばもっと北にある感じがするけど・・・そんな感じするでしょう?
稲作が出来るようになったことと、気候はあまり関係がありません。品種改良と深水灌漑という営農技術の高度化の成果です。去年か今年、麻生副首相が、温暖化で北海道の米が上手くなったと言ったので、北海道民の総スカンを喰ったらしいです。
今、ウクライナが写っても「無残な遺体」はぼかしが入ってて、日本人に残酷さが伝わってない
そんな事言ってるのを聞いたけど
東日本大震災の時、海外にいる日本人が現地の映像(遺体の映像がそのまま)を見て、
海外にいる日本人のほうが、東日本大震災を深刻に受け止めた
↑
そんな感じでしたか?
高校野球と言えば、タッチでしょ
作者の適当な名前の付け方に気がつきましたね。ニュースで甲子園をしていたから主人公は、タッチの和也。その後、和歌山が舞台のアニメサマータイムレンダを見たからヒロインの美代、もう名前が浮かばなかったら、人気の名前ランキングから、今どきの陽菜と莉子。
思ってたけど、分からんw
主人公の和也は誰だろう??
美代はともかく、陽菜や莉子はちょっと現代風な名前よねぇwたまたま??
私は、公衆電話の使い方が分かりません。物心ついた時には、街からなくなっていました。カセットテープがなんのことか分からなくてwikiで調べてしまいました。もの知りなつんが羨ましいです。
スズランさん
珈琲ゼリーもプリンも100円です。10個くらい買ってください。9月2日からシャインマスカットフェアが始まりますが、シャトレーゼの本社は山梨甲府です。このフェアは期待できます。
mさん
北海道に梅雨はありません。今年も、6月末に洪水が起こりましたが、気象庁は頑なに北海道に梅雨を認めません。北海道に梅雨を認めると亜寒帯から温帯になって、教科書が変わってしまうからでしょうか。
アリスさん
夏休みは、5科目が1冊になった問題集のような宿題と読書感想文、絵日記、絵か工作の宿題が定番でしょうか。夏休みに追い込まれたことはありませんが、きっと、適当にすましたからだと思います。
懐かしいね!
小学生は、可愛いね!
北海道全体に梅雨は無いと思ってたけど、今は変わった?
北海道で稲作が順調なので梅雨もあるのかしら?
コロコロ女子に対する気持ちが変化するのもリアル感がありますね。
夏休みの登校日の大人事情ww
珈琲ゼリーから価値観の流れは、私も忘れてお店名だけ気になってました笑。
お店を検索したら、わりと近くに発見したので、
車で通る事があったら買いたいと思いました(*´﹃`*)
別に若者ぶったりしてませんってばぁw^^
私の子供の頃は 校庭は年中出入り自由でしたし、サッカー、バレーボール、水泳、剣道などなど
クラブ活動的な事は先生中心で盛んでしたから 先生はチョクチョク学校に来てたのでしょうw
きっとそんな時にお給料も貰っていたのですよw きっとねw
自分の舌より、ぐるなびの点数を信じる人が多いです。隣の店は空いているのに、行列が出来ているお店に入ろうとする人もいます。自分の味覚を信じろと叩きこんでください。
たまちゃん
北海道は、今日から2学期が始まりました。内地と比べたら、大損をしているのではないでしょうか。夏闇の宿題をする時間が10日も少ないです。ラジオ体操のカードも全部スタンプを押してもらえません。
柔軟ねとか、臨機応変とか、天衣無縫とか、君子は豹変すとか、表現は多々あると思います。私は、褒められて舞い上がるタイプなので、どんどん褒めましょう。
涼華さん
おそらく、先生にバレていたと思います。子供は、花の絵なんて描こうと思いません。書きたいのは、ステゴザウルスやティラノザウルスです。おっと、涼華さんも恐竜を描いていたのでしょうか。
mさん
釧路の最高気温は、夏でも20度~25度くらいです。半袖は必要がない地です。釧路川でビアガーデンが開催されていますが、ネーミングは、「ひやガーデン」です。
ゆりさん
女性がか弱いというのは幻想だと思います。和也のパパは、シャトレーゼの100円の珈琲ゼリーですが、ママは、ランチのあと、ママ友とコメダの700円のコーヒージェリーを頼んでいると思います。
もしかしてもう長袖ですか?
釧路が写ったら長袖!
こっちはまだまだ暑いゎ
解釈していました。お父さんとお母さんの力関係もここでよくわかりました。
この小説にはあるべき部分かと存じます。
さてそれは置いといて、そうか、今は夏休み終盤戦ですよね。
学校によっては早めに切り上げるところもあるかも。
登校日のほかに、プールにも行かなくちゃならなかったから、
なんだかんだ学校に行っていた気がします。
読書感想文や絵の宿題は、ほとんど私がやってました (*≧m≦*)
どどどどどっ☆≡≡≡≡ヘ(〃 ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄)ノ
だいたい、沖人さんはそんな感じなので大丈夫w
まるで、私が小学生の時は、給料は振り込みなっていたわとの宣言をしているようです。しかし、つんが小学生の頃の1万円札は、大きな聖徳太子。500円札があったでしょう。
今からでも遅くありません。書道教室、ペン字教室、フラダンス教室など、通えばいいのです。松重豊のような渋オジが現われて、美味しい定食屋を教えてくれるかもしれません。
mさん
登校日を止めてしまったら、給料日のために登校させられていたことがバレてしまうのです。小学校3年生くらいの時は、お菓子の空き箱でロボットを作り、単1、単2、単3の電池が何時間もつかという自由研究でした。
『 心がボールのように弾む感じ 』 いい表現ですねぇ~w
子供の頃の夏休みのワクワクがよみがえってきます^^
残念ながら 私が小学生の頃は「登校日」は無かったし、学校の目も前に住んでいたので
普通の人よりお休み明けの感動が少なかったですけどw
日直が日誌を書くのも 高校になって初めて体験しましたが…
毎度一言多いい川部君が いっつも先生に怒られて バツとしてほぼ毎日日直をしていたので
それも書いた記憶はないですねぇ~
世の中の小学生は夏休みの登校日や日直日誌てあるのですねぇ 大変だなぁ~
で、今でも続いてるんですねぇ~~~給料が銀行振り込みになったから、もう登校日は不要だと思うけど?
沖人さんは小学生の自由研究、何した?何か作ったの覚えてますか?
私、そのような理由で、学校に行きたいって思ったことがない女子でした笑←つまらない女子ですね;;
コーヒーゼリーの美味しさがわかるのは思春期頃からなのかしら^^
今日も喫茶店で、珈琲ゼリーをいただいてきました。ゼリーに、生クリームがたっぷりとのっています。110円なので、ミントの葉はのっていませんが、シロップとミルクをかけると絶品です。
ゼリーは水分補給になるから食べましょう