Nicotto Town


人に優しく。


挨拶


中年の男が言った。

「監督さん、こんな木偶の坊に腹を立ててもはじまりませんぜ」

監督は黙って、鼻の孔から煙をはき出した。

煙草のヤニで茶色になった指が、籐の鞭を握ってせわしなくうごめくのが見えた。

中年の男は、監督のポケットに煙草の箱を押しこんだ。

監督はまるで気づかぬように、フンと鼻をならしてポケットを手で押さえ、向こうへ行ってしまった。

「あんた、新入りだな」

中年の男がたずねた。

羅漢大爺は、そうだと答えた。

男はつづけた。

「新入りの挨拶をしてねえんだろ」

「むちゃだ、畜生! むちゃだよ、ひとをむりやり連れてきておいて」

羅漢大爺が答えた。

「小銭でも、煙草一箱でもいい。働くか怠けるかじゃねえ、間抜けだけがぶたれるのさ」

中年の男は言った。





ー 『赤い高粱』 莫言 ー




 




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