ニコタリオン (前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2022/10/23 18:54:30
コンソールのディスプレイに「送信」と表示されたアイコンが明滅している。健太郎がディスプレイに触れると、アイコンが灰色の表示に変り、「異常なし」のメッセージが、宇宙船の指向性アンテナから、2億5千万km先の地球に向けて送信された。メッセージは15分で地球に届くが、土星の衛星タイタンからの帰路につくニコタリオン18号が、地球に戻るまであと2年が必要だった。
タイタンは、木星のガニメデに次いで太陽系で2番目に大きい衛星。そして、地球以外で安定的に地表に液体が存在する唯一の衛星だった。極低温のタイタンには、メタンの雨が降り、メタンの川が流れている。健太郎の乗るニコタリオン18号は、メタンを運ぶ星間輸送船だった。
黄金のレコードしか積んでいないボイジャーは3年でタイタンに到達したが、メタンを満載する貨物船は往復20年かかる。メタン採取の宇宙開発が始まった頃、無人自動制御の宇宙船が試されたが、宇宙線の長期暴露や宇宙塵の衝突による故障に対応するためには有人の方がコストが安いという結論になった。
20年に及ぶ長期の宇宙航海のため、船員の健康が心配されたが、遺伝的な確認をしておけば、栄養バランスのとれた宇宙食と病原菌のいない環境下では発病のリスクはなかった。問題は、ストレスからから生じる健康阻害だった。ストレスの原因は人間関係であり、24時間、狭い船内で過ごすことから、一旦、人間関係が悪化すると回復は困難であった。そのため、宇宙貨物船には、宇宙航海士が1名だけ乗船することになった。
健太郎は、高校を卒業すると、宇宙航海士の募集に応募した。宇宙航海士といっても、専門的な知識はいらなかった。AIの指示通りに作業が出来ればよく、健康と指示通りに行動する素直さだけが条件であった。
健太郎は地球を出発し、18年間、一人ぼっちだったが、孤独を感じたことはなかった。荒野の一匹オオカミは孤独を感じない。群れるから、仲間から疎外されたり、取り残されたりした時、孤独を感じる。
二コタリオン18号には巨大な貨物室があり、その大半は、20年分の宇宙食で占められていたが、宇宙航海士の先輩たちの助言と作業員の目こぼしにより、煙草と白い粉が積み込まれていた。その二つがあれば、陶酔することができ、宇宙空間での不安を忘れることができると教えられた。
健太郎は、煙草に火をつけた。操縦室に立ち込めた紫煙がダクトを通じて、船室に広がっていく。禁煙を前提に設計されたエアフィルターは、タールが貼りつき性能が低下し、船室はモヤがかかったようになった。
煙草を吸い終わると、健太郎は、ビデオを見ることにした。宇宙船には、退屈な時間を過ごすために、数万冊を超える書籍、漫画や映画のライブラリーが搭載されていた。健太郎は、歴史ドキュメンタリーを選んだ。今から3世紀前の21世紀に起こった第3次世界大戦の解説動画だ。
軍事大国であったロシアが、肥沃な国土地帯のウクライナに突如として侵攻した。短期間で終わると思われた軍事進攻は、頑強な抵抗により10年を超える消耗戦になった。気候変動による世界的な干ばつと洪水も発生し、小麦価格が天井知らずの上昇を続け、世界的な食料不安が巻き起こった。
ユーラシア大陸東端に位置する四国の香川では、うどんの価格がうなぎぼりに上昇し、かけうどんが一杯1000円を超えた。うどんを食べることと生きることが同じ意味を持つ香川県民は、一杯のかけうどんを数人でシェアして食べ、耐え忍んでいた。
そのニュースを見た東京もんが「一杯千円の蕎麦なんて普通じゃん」とヤフー掲示板に書き込んだことが発端になり、香川ではうごんをよこせと100万県民が中央通りに繰り出す騒動が巻き起こった。エスカレートした一部の市民は、県庁の倉庫を打ちこわし、非常食のカップうどんを奪い気勢を上げた。
博多、稲庭などへの波及や沈黙を続けているラーメン愛好家の反乱を恐れた東京政府は、香川征伐に官軍を繰り出した。香川県民は西国の雄、大阪の援軍に期待したが、小麦価格の高騰により、粉もん不足に陥っていた大阪には、官軍に抵抗する力は残されていなかった。官軍に徹底的に弾圧された香川では、800店舗のうどん屋は全て更地にされた。
その映像は、SNSを通じて世界各国に拡散された。宗教や民主主義を巡るイデオロギーの対立に無関心であった民衆も、食の自由への侵害は見過ごすことはできず、世界各地で自由を求めて騒乱が巻き起こり、いつしか、食文化を巡る争いへと発展した。
中国では、麺・包子文化の華北地方と稲作文化の広州地方が赤壁でぶつかり、欧州では、じゃが芋を馬鹿にするなとドイツがフランスに攻め込んだ。世界は、米、小麦、トウモロコシ、芋の四大勢力による覇権争いに陥り、永世中立を表明した信州長野を除き世界は焦土と化し、戦争による莫大な浪費により、化石燃料は枯渇した。
戦後、枯渇した化石燃料に代わるエネルギー源を宇宙に求め、タイタンのメタン開発を目的としたタンメン計画が始動した。
ビデオのエンドロールが流れている最中に、画面がエマージェンシーモードに切り替わり、ビープ音が響き渡った。ディスプレイには、救難信号を受信したことを告げていた。
健太郎は画面をタッチして、救難信号の発信源を確認した。二コタリオン18号から10万km前方が発信源であり、進行方向は一致していた。両線の軌道は3時間後に最接近する。健太郎は、宇宙服を装着すると救助用の高速ランチに乗込んだ。操縦は全てAIが行い、接近するまでは、健太郎は画面を見ているだけでよかった。
高速ランチが脱出艇に近づくにつれて、画面に小さな光の点として映っていた脱出艇が徐々に鮮明になっていき、二コタリオンと同型の宇宙貨物船に搭載されている脱出艇だと分かった。二コタリオンの脱出艇の生命維持装置だと、半年は生存可能だ。
ランチが減速し、脱出艇との相対速度が徐々になくなっていく。進行方向のベクトルを一致させ、回転速度を合わせていく。完全に同期すると、ランチと脱出艇のエアロックが接続された。脱出艇からランチに情報が送られ、ディスプレイに表示された。
脱出艇及び遭難者の状況はオールグリーン。遭難者は1名。遭難後は1週間しか経過していない。ディスプレイに健太郎への指示が表示された。脱出艇に乗込み、カプセルの生命維持装置を解除し、遭難者をランチに収容する手順だ。健太郎は、手順を復唱するとエアロックに向かった。
健太郎は、収容した遭難者をランチのベッドに固定した。遭難者は、覚醒過程に入っているが、まだ、意識は戻っていない。操縦席に戻り、収容作業が完了したことを操作パネルから入力した。
AIがエアロックを分離し、ランチは二コタリン18号に向かって発進した。遭難者は宇宙服を着ていた。ヘルメットのバイザーは、偏光グラスになっていて、表情は分からない。宇宙服のネームには、「せいら」と綴られ、そして、宇宙服を着ていていても、その存在を感じることができるほど、胸のあたりが盛り上がっていた。
つづく
感じませんでした。その頃は、カレーを食べていたと思います。海外は、環太平洋地帯とヒマラヤ以外は、あまり地震が起こらないかもしれません。
海外で地震にあったことありますか?
私の乏しい海外旅行経験で地震にあったことは無いケド・・・?
二女はコロナワクチン接種「注射は怖い、痛い。注射キライ」と接種してないので
ドラッグストアで無料検査、予約したけど
「県内に住民票がある人のみ、無料」二女は有料・・・
「全国旅行支援割引き」の割引金額と【有料】が似たような金額
ドラッグストアでの有料検査は受けず「全国旅行支援割引き」も受けず←二女だけね!
沖人さんは検査【検査キットかな?】有料ですか?
明日、飲み会の中止を連絡した方がいいかな~と思っております。
私は、10年以上、病院に行っていないので、病院にはいきませんが、検査を受けないと会社に出社できません。
日医工は上場廃止で株価、ストップ安だとか・・・関係無いケド(ジェネリック医薬品でもしかしたら関係があるかな???)
新型コロナの新規感染者・・・ほんと!増えてますねぇ
いつになったら「2類」からインフルエンザ並みになるのかしら・・・?
もし今熱が出たら(風邪かインフルかわからず)どぅ?近所の内科へ行きます?
こちらでは、全くニュースになっていません。北海道でコロナ感染者1万人突破が、トップニュースです。是非、東京を抜いて、全国1位の座をとって欲しいです。そして、早々に北海道だけ8波が終わり、旅割が独占できることを願っています。
ホンマカぁ~~~太るのは良くないんじゃ~~~?
日医工が上場廃止とか、広貫堂が業務停止1か月とか・・・そちらでは聞きます?
やって無いかな?
今どき、ラーメン屋に行っても大盛を頼むのはおっさんばかりで、食べない若者が増えていますので、貴重な人材として、もりもり食べてもらいましょう。作った料理を残されるより、残さず食べてくれるなんて、素敵な旦那よよ娘さんを説得するのはいかがでしょうか。
それから「おかず」を食べてもらわないと、作った分を全部食べつくされる・・・と二女はぼやいてます
何か良いアイデア、あります?千切りキャベツを先に食べさすとか・・・ですかねぇ?
ただ千切りキャベツ用ピーラーは役に立つか?
買う価値があるか聞いてきたけど・・・どうかな?
国民の8割が「とんじる」で2割が「ぶたじる」。豚汁は、北海道と九州北部が中心らしいです。本州は、ツキノワグマですが、北海道はヒグマです。本州でさけと言うと、「酒」ですが、北海道だと「鮭」です。
初めて聞きました!周りに聞いてみよう~???
そうだ!北海道は「ごみをすてる」ではなく「ゴミをなげる」って言うんでしたよね?
北海道の「熊」は本州と違って大きいんでしたよね?
モーパッサン、あるいは島崎藤村のように、ありふれた日常をありのまま描く自然主義の系譜を継ぐ作風を目指していたのですが、あまりにも地味な生活をおくっているので、書くネタが尽きてしまいました。SFは、ネタに困った証明です。
mさん
博多の屋台に行った時には、爺ちゃんのお客も結構いましたので、鍛え方によっては、100歳まで豚骨を食べられると思われます。スープカレーにすれば、脂肪分がないサラサラスープ。たいていは、薬膳です。私は、肉まんですが、豚汁を「とんじる」と呼ぶか「ぶたじる」と呼ぶかで、先日、論争が巻き起こりました。
つれあい、カレーを食べると「胸やけ」・・・私のメニューからカレーは無くしました。
「豚まん」「肉まん」・・・そちらは「肉まん」と言うかな?
関西は「豚まん」ですが、北陸は「肉まん」かな?
コスト上、人件費の方が安いとか納得です笑。
宇宙に一人とか究極のボッチ生活だと思いながら読んでたら、歴史ドキュメンタリーで現世の情報が出て、上手い持って行き方だなと思いました。
小麦粉の表現が細かくて、大阪は粉もんに思わず( ,,>З<)ブフ`;:゙
遭難救出イベもすんなり進んで、名前からもそそられます。
後半も楽しみにしてますね~!
二コタの皆さんの中で、宇宙に行ったことがある人はいないと思うので、何を書いてもバレません。得意の適当さが発揮できそうです。続きには、火星人を登場させようと思います。それを、タコ焼きにして、壮大な宇宙の物語にします。
宇宙の世界が想像に広がったよ。
うどんの戦争はイランの女性の事件を彷彿とさせるね。
続きが楽しみ。
国内から、どんどん撤退しているようですね。以前は、香川にもあったようです。国内50店舗が、今では、13店舗。何が、あったのでしょうか。豚骨系なので、本場博多に押されてしまったのでしょうか。ちょっと、応援に食べにいってくることにします。
創作日記を書く気はあったのですが、全く思い浮かばない状態が続きました。これまでは、通勤の地下鉄の中で考えることが多かったのですが、転勤で地下鉄の乗車時間が25分から5分になってしまいました。5分だと、今夜のおかずを考える時間もないのです。今度から、乗り過ごして時間を稼ぐことにします。
wineさん
シリーズ化した方が、登場人物のキャラクターも分かりやすくなってくるし、その方がいいと思うのですが、作者が何を書いたか覚えていないので、シリーズ化できないのです。それどころか、書いているうちに主人公の名前がいつの間にか、変ってしまうこともあります。
リンゴさん
今回は、本格派スペースオペラです。今後、ダースベイダーやレイア姫が登場するはずです。しかしながら、私の話は、前半はまるで関係ない話になってしまうことが多々あります。いつの間にか、異世界転生物になってしまうかもしれません。作者が、いつ後編を書くかということも問題です。
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・・・閉所恐怖症には無理ですね・・・たしか宇宙船っておしっころ過して飲むんですよねぇ(-.-)
はぁ~~~~~~~~~~~
いつの時も香川民はうどん魂を熱く持っているんだなって思いました♪
せいらさんの意識が戻ったら・・
の続き楽しみにしてます♪
シリーズ化しないのかなあ。
第一次世界大戦は、オーストリア・ハンガリー帝国の王位継承者フェルナンドの運転手が、行き先の変更を聞いていなくて、脇道に迷い込んだところに偶然居合わせたテロ犯に撃たれたことに始まります。フェルナンドは、日本を訪れた時に、まちが清潔なことに感心したり、お茶屋遊びをして、シェーンブルン宮殿に日本庭園を気づきました。たまちゃんも路地裏に迷い込まないようにしてください。
涼華さん
えっ、うごんを知らないのですか。香川では、うどんより、直径が0.5ミクロン太いものをうごんと言います。ちょっと太いので、ざるやぶっかけより、温かいうどんに適しています。暖かいうどんは、延びやすいので、0.5ミクロンの違いを感じることがデキルノハ、0.5ナノ秒くらいです。ぜひ、香川のうどん屋を訪れた時は、かけうごんと叫んでください。ちょっとなまっているなと思われるかもしれませんが、通じるはずです。
りんごさん
ランチ(英語: Launch)は原動機付の小型の船。港湾内で連絡、交通用に使われたり、大型船に積まれて乗組員の上陸、食料・荷物の運搬に使われたりする。もともと、ランチは帆船時代に、軍用船が積める一番大きな船であった。スペイン語のランチャ(lancha、「艀」の意味)から、あるいは、マレー語のランチャラン船(lancharan、lanchar「容易に速度を出せる」から)からきたポルトガル語からの借用語であるとのことです。
高速ランチと減速ランチが分かりません。
うどんが高速で運ばれ、うどんが減速されるのでしょうか?
胸の膨らみがマッチョマンの筋肉でないのを祈ります。
続きが楽しみです。
せめて2人。。2人なら、色々思うところはあっても
1人よりは耐えられそうだし。。(*≧m≦*)
健太郎も18年間一人で過ごしてきたけど
これから、「せいら」さんとの絡みがあるんでしょうし、楽しみですw
それからこれ
>香川ではうごんをよこせと100万県民が中央通りに
うごん? うどんの間違いでしょうか? (*≧m≦*)
そうそう、最初から一人なら寂しくないんですよ。群れるからダメなんですよね。
そうこう言ってる間に、今回はこれまた壮大な物語で!
しかも第3次世界大戦の重要な要因の中に香川県民のうどん愛が入っているとは!
ありそうだわ。SNSの小さな書き込みが発端とか、ありそうだわ~
長野は無事だったなら、信州のりんごも安全ですね。よかった。
そして「せいら」さんの胸の描写は予想どおりでこれまた安心♪