Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー3

ビルの4階にあるレストラン、ラ・パルフェ・タムールは吹き抜けで5階の一部を使っているが、それ以外の5階のほとんどは従業員の居住区とジムとなっていた。石橋は要に5階の角の一室を与えた。階段を上がって長い廊下を進むと突き当たるドアから導き入れられる部屋は8m四方のだだっ広い部屋で、左奥に机と裸のベッド、真ん中に応接セットが置かれている。向かって右手にはカーテンの閉まった小さな窓があった。掃除は誰かがしているようだが、それまで部屋を人が使った形跡はない。とにかく、殺風景な部屋だった。
「おじさん、これ。」
要は握りしめてくしゃくしゃになった手紙を渡した。
石橋は封を切り、素早く目を通した。その手紙は石橋にとって林軍曹からの最後の命令書だった。
「了解しました。軍曹殿。」
石橋はそう胸の中で言った。
壁にかかった時計を見るとそろそろ9時になろうとしている。
「必要なものは、明日そろえよう。今日はそのまま寝るがいい。」
石橋はそれだけ言うと、要を部屋に残して出て行った。しばらくすると、色の黒い小柄な男が、食事を盆に載せて入ってきた。黙って盆を机に置くと、小脇に抱えていたシーツを押し付けるように要に渡す。
「自分でできるな。」
そういうと、男は要の返事を待たずに足早に部屋を出て行った。

次の日からいきなり要にとっての生活が変わった。
朝、要はそこがいつもの自分の部屋ではない違和感の中で目覚めた。時間は5時半、外はまだ暗い。辺りを見回すと、自分の背負っていたリュックが傍らに転がっている。要はそれに飛びついた。昨日の夕方、祖父と別れて石橋と言う男にここへ連れてこられた事を、少年はぼんやりと思い出した。
「おじいちゃん。」
呟くと、急に心細さが幼い胸に押し寄せてくる。
要はそれでもリュックのチャックを開けると、きびきびと身支度を始めた。祖父と2人で暮らした1年間、祖父は要を、自分の身の回りの事は自分で出来るようにと躾けていた。洗面所で顔を洗い、服を着替える。使ったベッドの乱れをきちんと直し、ソファーに腰を下ろしたところにいきなりノックもなく男が入ってきた。 
石橋でも、昨夜食事を運んできた男でもない。背が高く、冷たい感じのする痩せた男だ。
「ほおっ。」
男は意外そうに、そう漏らすと右手を顎に当てた。思わず壁の時計に目をやる。
6時だ。
疲れきって眠っているところを叩き起こしてやろうと楽しみにしていたのが、アテが外れたと言いたげに男は渋い笑いを口元にひっかけて、
「おはよう要、私は梶だ。」
と名乗った。
「付いて来い。飯だ。」
梶はそう促すと廊下へ出た。
梶に連れ添われて食堂に入ってきた要を2人の男が迎えた。一人は見覚えのある昨夜の小柄な男で、興津といい、大柄なもう一人の男は、原田と名乗った。
すばしっこく梶の後を付いてきた要にフライパンでベーコンエッグを作っていた興津が手を止めた。
「昨日も思ったが、やはり骨が太いな。」
「ああ、将来、苦労するだろう。」
梶が皮肉っぽく返した。
「まあ、若いうちは減量で何とかなる。しばらくは使えるだろうよ。」
しかし、もう一人のパンを焼いていた原田はちょっと違った感情をもったらしい。
「興津も、梶さんも、そう云うなよ。勘は良さそうだし仕込みがいがあるよ。」
弟分ができた事を単純に喜んでいる風だ。
昨日まで祖父と一対一の生活だったのが、今日からは石橋やこの3人の男達と一緒に暮らさなくてはならない。要は大きな声で
「おはようございます」
と素直に挨拶をした。
興津と梶は不意を付かれたように要を見た。
「よろしくな。」
原田だけがそういいながら要に笑いかけてきた。
ここから要の新しい人生が始まったのだ。

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2022/11/12 23:06
メルモちゃ いいですよ~(*´艸`)

12年前くらいの 要ですwww
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2022/11/12 21:22
あははw
要さんの物語と思っていいのかなぁw

ニコタでは複数のIDを作ってる人も少なくないのですが
しだれ桜さんと、要さんは同一人物なのかなぁ~~~
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2022/11/12 19:50
むたちゃ おはよ~ 明日もゆっくりしいやあ~

るなちゃ 読んでくれたんね ありがと~ (嬉
探すのたいへんやったんちゃうw ほんまありがとうね

それから もしよかったら ↑のころねちゃのお話もおもしろいねん
覗いてみてね(*´艸`)

ころねちゃ うんうん 中分類まで欲しいけどねww

12年前に書いたのをこっちへもってきてるから
自分でも読み返しながら 若ッって(*´艸`)
あんな頃があったんね(ΦωΦ)フフフ…
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2022/11/12 17:24
要君のこれからの生活はどうなるんだろう。
気になります(*^^*)
この建物の中には石橋さん以外にも住んでいる人たちがいるのかな?
段々と登場人物が出てきてビル内での活動も分かって来るんでしょうか。

お話の分類のことですが、昨日色々試してみたら、
コーデ広場で投稿したものも、後からならば小説分類に変更できるようなので、
まずはシリーズで書いたお話は自作小説分類にして整理し直そうかと。
そうしたら見てもらいやすいかな?数日のうちにやっておこうと思います。
しーちゃんにリスト作ってもらったおかげで色々やる気になれました~(*^^)v
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2022/11/12 17:05
しーちゃん、すごい!♪
一瞬なんだろうと思った^^小説なのですねー♪
1と2見つけて戻って読みました(*^^)v
続きも楽しみに読みに来ます~♪
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2022/11/12 07:34
しーちゃんおはにゃ^^




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