Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー14

ドアノブに手がかかり、ガチャガチャ鍵を確かめている。
「ちゃんと、閉まってんやんか。」
ジャラジャラ音がして、鍵穴に鍵を差し込む音がした。
「おいおい、入るんか?」
「中の金庫を見て来いゆう御達しや。」

2人のガードマンが入ってくる。部屋の明かりが煌々と付けられた。
最初に入ってきた一人はまず窓の方へと進んだ。足元には梶が隠れたソファーがあるのだ。梶は息を殺して気配を消した。カ-ペットを踏む足音が近づいてくる。

「動くなよ、梶。」

ロッカーの中の興津が心の中でつぶやいた。ガードマンの足音が近づくにつれ、梶は自分の心臓の音が高鳴っていくのを感じた。いざとなったら・・・と開き直った時、目の前を横切ると思った靴先が、突然止まった。ソファーがギシッといって沈んできた。ガードマンがソファーの上に乗り、後ろの窓の鍵をチェックしるのだ。梶の息が思わず止まる。

もう一人のほうは奥の部屋の金庫へ直接向かった。扉に手を掛けて金庫が閉まっている事を確認して、同僚に声をかける。

「閉まっとるわ。」
「当たり前や、あほらし。」

気が抜けたように笑いながら、男達は出口に向かった。明かりを消し、閉めたドアに鍵をかける。

「議員事務所の金庫、異常なし。」

そう無線に言うと、ガードマンたちは雑談しながら、またエレベーターホールへもどっていった。
エレベーターが二人を乗せて降りていく音がし、やがてまた静かになった。

事務所で、息を潜めていた梶と興津はすぐに動き出した。もうすぐ原田が二人を拾うために車を運んでくる。長時間の駐車は目立つ。交差点で一旦停止、それから発進する。その間に荷物と共に乗り込まなくてはならない。

興津は廊下の気配を探りながらドアを開けて梶と廊下に滑り出すと音もなく鍵を締めなおした。先に出た梶は既に非常口へ辿り着き鍵をあけている。連携プレイだ。再びビルの屋上に立った興津は先程のロープの先を1本に結わえた。二人はまたロープを渡り隣のビルに戻っていった。今度はさっきの2本のロープの先を結わえているので戻った先で片方を引っ張れば回収できる。痕跡は決して残さない。さっさと纏めて袋に詰め込んだ二人は非常階段をかけ降りて行った。

午前1時30分、時間通りに車が通りかかり、1回だけ右にウインカーを点け、間違ったかのように左に点け直した。それが合図だ。角で一旦停止を律儀に守った車は静かに発進し高速道路へと消えていった。

明朝議員事務所は騒然となった。何一つ動かすことなく、金だけがかき消すように無くなっていたのだ。絵画と金の事はごく一部の人間しか知っておらず、当然これは内部犯行と考えられた。金の性質上警察に届けるわけにはいかない。議員は私立探偵を雇って独自に調査をしたが、これと言う人物が全く浮かんでこない。手馴れたプロの犯行らしく、痕跡が全く残っていないのだ。

最終的にはどうも外部の者のようだとの結論になった。
捜査がラ・パルフェ・タムールはおろか、情報をそうとは気付かずに漏らした画商にさえおよぶ事はなかった。府議会議員は地団駄を踏んだが、それ以上はどうしようもなく、事件は闇から闇へと葬られた。





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