Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー13

要の最初のバイクはオートマの50ccオフロードだった。6歳の要は原田に連れられて山野へ行き、オフロードを毎日何周も走りこんだ。そうやって体重移動、逆ハンを自然と身に付けていった。テクニックが飲み込めるとだんだんスピードが上がっていく。しかし、ある程度タイムが短くなると急に頭打ちが来た。いくら速く走ろうとしてもそれ以上タイムが縮まらないのだ。
「昨日より今日。」
要はアクセルを開けるタイミングを変えてみたりブレーキングを変えてみたりするのだが、なぜか反って前日よりタイムが落ちたりする。そんな要に原田は走り込めとしか言わない。
「なぜこれ以上速く走れないんだろう。」
「やっぱり、これがこのバイクの限界なのか?」
どうしても、自然とそんな考えが浮かんでくる。
「そうかな?」
しきりに首をひねる要に、ある日原田が今日は俺の後ろからついて来いと言った。
原田に付いて走ると不思議な事にタイムが少し良くなるのだ。すぐ後ろから走る事で、自然と原田の走り方をなぞるように真似る。そうする事によって、要には原田と自分のライン取りや、アクセル、ブレーキのタイミングの違いが徐々に見えてきた。自分の全開走行より原田のメリハリのある走りの方が速いと言う事が判ってきたのだ。
「どうだ、バイクのせいじゃなかっただろう?」
笑いながらそういう原田に、要は大きく頷いた。

そうは言っても、いつまでも50ccに乗っていたわけではない。それから数年後、原田は要に250を買い与えた。要は小躍りした。こいつに比べると、いままでの50ccがおもちゃに見える。
オンロードタイプの250は2ストロークでピーキーなエンジンを積んでいた。今までの50と比べるとトルクが格段に違う。しかしピーキーなエンジンだけに回転域をきっちりと合さないとそのトルクを有効に使えないのだ。そのへんがアバウトなオートマとは全然違うのだ。シフトアップのタイミングはエンジンの回転を落とさないようにしなければならない。要は最初のうちこれにいくらか手こずったのだが、感じを掴むのはさすがに早かった。動力伝達もクラッチなのでエンジンの回転がダイレクトに繋がる。とにかく速い。
最高速をさらに伸ばすために要がスプロケットを初めて自分で変えてみたのも、このバイクだった。原田は、アドバイスはしても、めったに手を出さない。要は試行錯誤を繰り返しながら、経験を積み重ねていった。おかげで12~3歳になる頃には、自分の癖に合ったバイクに調整するにはどの部分をどう変えればいいのかといった、基本的なことがかなり分かってきていた。基本がわかるとさらに専門的な知識を求めて資料を読み漁る。バイク雑誌を隅から隅まで読み込み、相変わらず原田を質問攻めにするのだ。要のバイクに関する知識はこうしてどんどん増えていった。
「俺も、原田さんみたいに何でも自分でできるようになりたいな。」
要は、目を輝かせながらよくそう言った。しかし原田は、
「俺達にできることなんてのはたかが知れている。」
と言う。
「もし大きくなってレースに出るならメカニックが必要だな。俺も工場長を一人知っている。」
「工場長?」
「そう、コンロッドを叩いて千分の一ミリで調整できる人だ。」
「ふ~ん」
「そのうちわかるさ。」
もっといろいろ知りたい、原田のようなエキスパートになりたい。幼い要の胸は夢に溢れていた。

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2022/12/03 01:57
要くんは頑張りや勢いだけではタイムを変えられないと悟ったんですね。
要くんはレーサーになったりするのかな
なんだか私にとっても今ちょうそそういう事を意識する時期に来てる気がして、
物語を読ませてもらってそうだよな~気持ちだけじゃだめだな~って思いました。




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