Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー16

ある日、山頂の駐車場に着いた時、要は後ろから突然声をかけられた。
「あんた、速いね。」
振り向くと、ヘルメットを小脇に抱えて要と同い年ぐらいの青年が立っている。どこかで見たことがあるデザインのヘルメットとブーツ、後ろに赤黒のGPZ750Rが止まっている。丸顔に大きな目ときりっとした太い眉が目を引く。センター分けにした髪が綺麗にウェーブを作って左右に流れていて穏やかな感じを出しているが、なにか鋭く感じさせるものを持っている。
「ああ、速いよ。原田左門仕込みだからね。」
要は、少し自慢げに応えた。
「へえ・・・。」
男の目が羨望と驚きに見開かれた。関東を中心にその名を馳せた原田左門の名前はここ関西の走り屋たちの間でも伝説のようになっていた。ただ、大方の人間は原田が神戸にいることを知らない。今も東京でレースに出ていると思っているのだ。
声をかけた男は
「さすがは原田さん直伝やな。」
「おれはアキラや、石上 アキラ。」
と空いている右手を要の前に差し出した。
要は以前この山でこのGPZ750Rが後ろにGSX400とCBR400Fを引き連れて走っているのと、すれ違った事を思い出した。一瞬躊躇したが、
「石橋 要だ。」
と、その右手を握った。
要は石上アキラと名乗るこの青年に自分と同じ匂いを感じた。こいつも速い。そしてどうやら向こうも同じように感じているようだ。
彼の後ろには同年代の男が2人従っている。見るからに彼らも速さを求めてアキラに行き着いたようで、どうもアキラに心酔している様子だった。要を見る目にもそれが溢れている。
アキラは振り返って小柄な方を指し、
「こっちは環。」
と紹介する。環と呼ばれた男が頭を下げた。さらさらの髪が目のあたりまで伸びている。センター分けで目は一重だがまつげが長く、すばしっこい瞳をしている。顎の線が細い。
「こいつはハルや。」
ハルは背が高く細い。頬の線が直線的で少し顎が出ている。天然パーマの前髪の下でどこを見ているのかわかりにくい細い目、唇も薄い。どこか薄幸の影を持った男だった。

「今から下まで 流さへんか。」
アキラがにやりと笑った。ヘルメットを被りながら要に聞く。
「下のドライブインまで、軽く流そう。」
後ろの二人はこれを聞くと、もうヘルメットを被って、あちこち締め具合を調整している。早い話が全員戦闘態勢なのだ。
「軽くか・・・」
要は、グローブを手に馴染むように指を動かしながらはめると、ふっと息を漏らしヘルメットを被った。気合が入ってる。 こっちもマジで行くぜ。
要も気合を入れ直しバイクに跨った。





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