Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー20

1週間後、要はまた先週と同じ山頂の駐車場にいた。この間の時間より少し早い。辺りを見回すがそこには要以外誰もいない。
店ではその日は朝から次のヤマの段取りの会議があるはずだった。
要は会議が嫌いだ。大抵は、石橋と梶がしゃべってるのをただ聞いているだけで、退屈極まりない。偵察の報告はその都度しているし、自分はいてもいなくても、同じようなものだと思っていた。ヘルメットを小脇に出かけようとする要に目を留め、興津が文句を言った。
「おい、どこに行くんだ。」
「もう一回、現場を見てきます。」
要は嘘をついた。
「もう偵察はいらんと、梶が言った筈だ。」
「・・・・・。」
要は構わずバイクにまたがる。
「要、聞いてるのか。」
怒鳴る興津を、原田が押さえた。
「会議が終わるまでには帰って来い。」
原田は要が朝早くおきてバイクの整備をしているのを知っていた。その目的にも気付いていたのだろう。まだなにか、言いたげな興津を尻目に、要は黙ってガレージを後にしたのだった。

「今日も、来るだろうか?」
要は自販機で、スポーツドリンクを買うと、ベンチに腰を下ろした。どのぐらい待っただろう、下の方から聞き覚えのある音が上って来た。
「オンオン コッコ~~ン」 
やがて、アキラたちのバイク3台が駐車場にやってきた。要は目を輝かせると、とっくに空になっていたボトルをゴミ箱に投げ込んだ。ベンチから立ち上がり自分のバイクの方へ歩いて行く。アキラ達も要を見つけバイクを隣に停めた。
「よっ」
要は右手を上げた。もうそれだけで誰にも止められない自分の世界に入っていくのだ。ここでは俺が主役だという思いが強い。速ければギャラリーに憧れの目で見られるし、今はアキラたちと言う仲間もいる。
「今日は早いやんか。」
ヘルメットを上げて、アキラが声をかける。
「ああ、ちょっとギア比を変えたから走りたくなったんだ。」
さすがに、アキラたちと走りたくて待っていたとは言えない。
「そっか、原田さんのアドバイスなんや。」
アキラが笑いながら言ったこの言葉に、要は少なからずムキになった。
アキラたちが原田を尊敬しているのは知っている。それでも、何かというと “原田さんの”が頭についてくる。もう沢山だとばかりに、
「今回は自分で考えたんだ!」
と語気を荒らげた。
「へ~、今日は機嫌が悪いねんなあ。」
アキラは特に気にしたふうでもない。
「で、走るんか?」
「勝負だ。」
言い切る要に他の2人も肩をすくめる。
「いつでもええで。」
アキラがのった。もちろん環もハルも異存はない。
要はヘルメットを被り、手袋のマジックテープを締めなおした。指を動かすとちょっと違和感がある。しかし、それを気にも掛けないほど要は頭が熱くなっていた。バイクのエンジンに火を入れ、少しだけ暖機運転をする。エンジンが冷えるくらい時間が経っていたのだ。
やがて、エンジンの回転が滑らかになった。
「よし、この間と同じコースだ。」
要の声にアキラが頷いた。
今度は遠慮しないぞ、前回は様子見だったし、そうそう猪が出てたまるか。
「今日はギアもさわったし負けねえ。」
と心のなかで囁いた。

「OK、第一コーナーを抜けたところからスタートや。」
アキラがそう言ってバイクをスタートさせる。
「望むところだ。」
4台は駐車場を後にした。
要とアキラがダッシュした。今回は環とハルは後ろから見ているつもりのようだ。
「速く走りたい。」
そんな本能を剥き出しにした二人は一歩も譲らず第一コーナーに突っ込んでいくのだ。前回の勝負で要の腕を知っているアキラは、今日は始めから全開で突っ込んでくる。要もいつもよりブレーキングポイントを遅らせて少しでも前に出ようとする。
「コオ~~~ン~~」
二台のエンジン音が交差する。並んでコーナーへ突っ込んだが、アキラのほうが先にアウトインアウトで攻めるためブレーキを使った。要は構わずインへ切り込みイン側について体を倒しこんでいく。環とハルは2台の走りを見てお互い目を合わせた。ちょっと熱くなってないかという目だ。頷く間もなく二人も第1コーナーへと続いて入っていく。
第1コーナーの出口では要の後輪とアキラの前輪がクロスして、アキラが要の後ろ数センチの差でピタリと張り付いている。
「よし、今日はシックリしている。」
要は思った。アキラはアキラで、ちょうどバイクのサスもタイヤも馴染んできた頃だった。
「ええぞ おもいっきり行ける。」
自分のバイクを信じているのだ。
いくつものコーナーを抜け、かなり下まで降りただろうか、それでも要はまだ前を走っていた。次の急な右コーナーを抜けるともうすぐゴールだ。コーナーへ突っ込むその時、突然視野に飛び込んで来た白いカローラが内側の対向車線からオーバーラーンしてきた。
「くそ、ばかやろう。」
要は、チェンジを落としブレーキを掛け、体重移動で咄嗟に躱そうとしたが、間に合わない。そのまま後輪が左へズルズル滑り、立て直そうとしたときにバイクが何かに引っかかって左側に投げ出されるように飛ばされた。すぐ後ろに付いていたアキラは要のバイクが飛ばされたおかげで前が空き、なんとかカローラを躱すことができた。
「やってもた!」
アキラは慌ててコーナーの出口でバイクを停めヘルメットを脱ぎ捨てると道路に投げ出された要に駆け寄った。環もハルもハザードを付けて止まり、駆け寄る。要はガードレールに救われ、幸い谷には落ちずにいたが、その右足がバイクの下敷きになっている。すぐに3人でバイクを持ち上げ、要を引きずり出す。、もれたガソリンの匂いの中、要の意識が薄れていった。自分の名を呼ぶ友たちの声だけが遠くに聞こえていた。

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2022/12/24 00:26
ううハラハラします(/ω\)
どうなるんだろう?




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