Nicotto Town


しだれ桜❧


時の流れー21

気がつくと要は白い部屋で右足をギプスで固定されベッドで寝ていた。頭がずきずき痛い。上を向いていた顔を左に向けると興津と原田が見えた。
「お前らはもういい」
原田が、アキラたち3人に言っているのをぼんやりとした頭で聞いていた。急に目の前に現れた、白いカローラと、自分の方に飛んでくるバイクが、フラッシュバックのように要の脳裏をよぎった。
ああ、事故ったんだった。
「俺は大丈夫だ。すまん。」
そういうのが精一杯だった。
アキラ達は興津と原田に頭を下げると、口々に要に別れを告げながら部屋を出ていった。

「馬鹿をしたな。」
ドアの閉まるのを待って、興津が言った。窓に向けられたその横顔が怒っている。
「奴らは、カローラがオーバーレーンしてきてお前は躱し損ねたと言っていたが、覚えてるか。」
原田が静かに聞く。
そうだ、あの忌々しいカローラがセンターラインを越えてきた。俺は躱せなかったんだ。バイクがハイサイドのように振られて、飛ばされた俺は何かにしたたか背中を打ち付けられた。そこに自分の方にバイクが飛んできたんだ。
「どうだ?」
原田の声に要は力なく頷いた。
「じゃぁ 記憶は大丈夫だな。よし、足だけで済んだんだ。」

医者を呼びに行こうと踵をかえす原田に、興津がどれくらいで完治するのかと聞く。
「右足の骨折だけだからな。2週間もすりゃ、退院だ。」
興津に背を向けたまま、原田が答えた。
「退院したら歩けるのか?」
「ギプスが外れん事にはどうにもならんだろう。」
要領を得ない原田の返事に、興津はいらいらしてきた。
「それで?」
「固定を外したらリハビリだな。」
興津が原田の肩を掴んだ。
「いい加減にしろ、前のとおりになるには一体何ヶ月かかるんだ?」
声を荒げる。
「わからん。」
ドアを見つめる原田の顔は、苦悩に歪んでいた。足の骨折は、うまく行けば短期間で元のように歩く事が出来ることもあるが、不幸にして一生障害が残る事もあるのだ。興津の言う「前のとおり」とは盗賊団の一員として、先鋒として軽業師まがいの働きが出来るかどうかという事だ。
「・・・しょうがねえな、とにかくボスに現状報告だ。」
興津は吐き捨てるように言うと原田を押しのけてドアの向こうに姿を消した。原田は要を振り返った。
「気にするな。早くよくなれよ。」
そう言って興津の後を追っていった。

ドアがパタンと音を立てて閉まり病室に静寂が訪れた。原田と興津の言い争いを、要は全く上の空で聞いていた。天井を見つめる要が考えていたのはバイクのことだけだった。
「俺のバイク、どうなったんだろう。」
ロスマンズカラーに塗装したCB750F。かなり傷が入っただろうな。修理はできるんだろうか。足が治ったら、また乗れるんだろうか。いや、石橋はまた乗ることを許してくれるだろうか。
石橋のことを考えたとたんに、急に要を不安が襲った。多分、石橋に怒鳴られるだろう位は覚悟していたが、そもそも、石橋の命令を無視してアキラたちとつるんだ結果負傷したのだ。この先何ヶ月も仕事の役に立たないかもしれない自分を石橋は今までどうり、バイクに乗らせてくれるだろうか。自分にとって、バイクは全てだ。それの無い生活など考えられない。不安がじわじわと、要の頭に広がっていくのだった。

アバター
2022/12/24 00:55
要君にとってバイクはとても大事なものになっていたんですね。
それがなくなったら、できなくなったらどうなってしまうのか・・・
そう言う気持ち私も昔なったことがあったな。
自分にはそれしかないような、それを失ったら自分じゃないような、そんな気持ちでいたからでしょうね。
結局はその後全然違うことをしたりしたんですけど(´ω`)
人間生きているとまた違うやりたい事や夢が出てくることってあるんだな~と思ったものでした。
私が色々興味を持つことができたっていうこともあるのかもしれませんが。
これから要君どうなるのかな?




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.