ひとりぼっちの クリスマス・イブ
- カテゴリ:自作小説
- 2022/12/26 23:14:48
団子坂サービスエリアで煙草を吸っていると、小太りの男に声をかけられた。確か、田中という名前だったはずだ。チェックのシャツの上からピンク色のプルオーバーのパーカーを着て、さらにダウンジャケットを羽織っている。
小太りの体型が際立ち、たぬきの着ぐるみのようになっている。クリスマス寒波がおとずれ、日本海側では大雪になり、山梨も冷え込んでいるのに、田中の額には汗が浮かんでいた。
「太田さんも、煙草を吸うんですね。煙草を吸う人がいて良かったです。失礼ですが、太田さんはおいくつですか?」
「38歳です。田中さん、汗が出ていますよ。バスで体調が悪くなったんですか?」
「母が冷え込むからと言って、股引や腹巻を着て行けといって、きかなかったんです。今は、ちょうどいいんですが、バスの中が、暑くて暑くて。私も38歳です。同い年の人がいてよかった。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。もうすぐバスが出発する時間なので、そろそろ戻りますか。」
煙草の火を消すと、バスに乗り込んだ。大型の観光バスの運転席の後ろに添乗員と役場の担当者が座り、前方に女性が8人、後方に男性が8人座っている。添乗員が人数を確認すると湯村温泉に向かって出発した。車窓から、外を見ると甲府を囲む山々が雪化粧をしていた。このバスツアーに申し込んだのは、夏の終わりの頃だった。
ふるさと納税の返礼品が届き、包装をほどくと、いくつかチラシが入っていた。その中に、少子化対策事業「Xmasお見合いツアー」募集のパンフレットがあった。募集対象は、ふるさと納税をしている20代、30代の独身男女各8名。一泊二日で参加費は1万だった。
信玄の隠し湯と呼ばれる湯村温泉には、一度行ってみたかったし、今年のクリスマスは週末で、会社を休む必要もない。うまくいけば、伴侶も見つかるかもしれない。できれば、胸の大きな女性がいい。急いでHPにアクセスし申し込んだ。
お見合い会場の宿は、太宰治も泊まったことのある旅館明治。明治30年創業の老舗旅館、建物や調度は古いが、その分、趣を感じる。レトロな電話や家電が置かれていて、太宰ゆかりの品々も展示されていて、部屋も広々としていて、何度も訪れたい宿だ。露天風呂はないが、温泉旅館の名に恥じない泉質と源泉かけ流しで、湯船に贅沢にざばざばと湯が注がれている。ぬるめの湯につかっていると、田中が入ってきた。
「太田さん、星を見に行かなかったんですか?」
夕食後の告白タイムが終わると自由行動になったが、星を見るオプショナルツアーが用意されていた。
「田中さんこそ、星を見に行かないんですか?」
「一緒だった渡辺えり子さんに、星を見に行きませんかと言ったんですが、風邪気味だからって言われたので、温泉です。」
田中を傷つけないような断り方をした渡辺と言う女性は、優しい人なんだろう。木村美穂には、優しさを感じることはなかった。
旅館に着いた後は、アピールを兼ねた自己紹介や陶芸体験など様々なイベントが用意されていた。その後に、意中の人を問うアンケートが行われた。その結果をもとに、夕食の組み合わせが決められた。相思相愛の人から組み合わせが決まり、そうでない人は、どんな風に決まったのか分からないが、自分は、胸の大きな渡辺えり子を第1希望にしていた。
そんなことを知らない田中は、隣で、のんきに湯船の湯を掬うと顔を洗った。田中が頬を手のひらでこすると、透き通るような白い肌が、幾分紅潮した。
「太田さんは、星を見に誘わなかったんですか?」
「そういう雰囲気ではなかったですね。」
「えっ、どうしたんですか?」
「木村さんに、キモイって言われたんです。」
「えっ、何かしたんですか?」
「お恥ずかしい話ですが、今まで、女性と付き合ったことがないんです。目を見ながら話すのは、照れくさいじゃないですか。それで、視線を落として、ちょうど、胸のあたりを見ながら話していたんです。そしたら、キモイって。」
「それは、太田さんが胸が好きなだけではないんですか。」
「胸を好きだと、いけないんですか?」
「そういうことではないですが。」
「太宰治は、この旅館で『美少女』という短編を書いたんです。このお風呂のことですよ。この風呂で、美少女と太宰治は一緒にお風呂に入ったんです。太宰は、美少女の胸を見て、いいものを見たと書いているんですよ。街で少女に会ったら、顔より胸を覚えていると書いているんですよ。どうして、胸が好きだといけないんですか。」
「いえいえ、私も胸が好きです。」
「そうでしょ。でも気になることがあるんです。太宰は少女の胸を『コーヒー茶碗一ぱいになるくらいのゆたかな乳房』と表現しているんですが、巨乳の表現だと、どんぶり一杯になるくらいと書くのが普通じゃないでしょうか。マグカップでも巨乳とは言い難いですし、デミタスカップだと貧乳ですよ。」
田中は、その話題は、終わりにしたいかのように、また、湯船の湯を掬うと顔を洗った。小太りの田中は、思いのほか豊かな胸をしていた。
「私は、美少女といったら、セーラームーンですね。」
「私、気になることがあったんですよ。田中さんが着ていたパーカーは、六本木のセーラームーンミュージアム限定販売のパーカーじゃないですか?」
「そうですけど、よく分かりましたね。」
「私も、行ったことがあるんです。3回行きましたよ。先週も行ったところで、カフェで、クリスマスパンケーキを食べてきました。」
「太田さんも食べたんですね。私も食べました。月にかわってお仕置きよオムライスも食べましたよ。」
「他に、誰もいないし、歌っちゃいますか?」
ゴメンね 素直じゃなくて~ 夢のな~かなら云える
思考回路はショート寸前 今すぐ 会いたいよ~
つ~き~の光に 導かれ~ な~んども~ 巡り会う~
布団に入り、明かりを消した。長湯をしたせいか身体が火照って眠れない。常々、生涯の伴侶には、趣味が合うことが一番大切だと思っていた。好みの体型だと言えなくもない。こんなに心が躍るクリスマスイブは初めてだ。
新宿に向かうバスが、トイレ休憩に談合坂サービスエリアに停まった。田中と一緒に喫煙所に向かった。
「田中さん、セーラームーンミュージアム、12月30日までですよね。ファイナル一緒に行きませんか?」
「いや~ごめんなさい。昨日、渡辺さんと、一緒に行く約束をしたんです。彼女に、一度行ってみたいって言われたんです。それまでに、風邪を治すからって。」
「素敵な女性に、出会われましたね。」
もう一本、煙草に火をつけた。12月30日のファイナルを楽しみしていたが、行くのを止めた。凍てつくような寒さの中、浜田省吾のひとりぼっちのクリスマス・イブを口ずさみながらバスに向かった。
失くしたものが あまりに大きすぎて 痛みを
感じることさえも 出来ないままさ
ひとりぼっちの クリスマス・イブ
凍えそうな サイレント・ナイト
◇旅館明治
https://www.ryokanmeiji.com/
◇太宰治『美少女』
https://aozorashoin.com/title/242
◇セーラームーンミュージアム
https://sailormoon-museum.com/cafe/
セーラームーンカフェに一度もいけず、終わってしまったのは、残念でたまりません
いろんな事知っているね。
セーラームーンのカフェは綺麗だね。
男の人が食べていたら目立ちそうだね。
同性愛は初めて書くのではないのかな?
ちょっと悲しい展開だったね。
まだまだ、ちょろちょろしてますが、そろそろ腰も曲りつつあります。杖が必要になるのも近いでしょう。このコメントを書いていて、背筋を鍛えなければいけないと思いました。明日から、寝る前に背筋を30回するようにします。
「鼻から胃カメラ」を選んだ方が良いと思います。
私の方がお姉さん、多分沖人も母親に杖を買う時が来るかな?
「自立する杖先ゴム」杖買うときは「自立する杖」が便利そうです。
杖先ゴム付きの杖を買いました(正しくは杖を買って、杖の太さにあう杖先ゴムを同時購入)
母上
まだまだ杖なんかいらない、お元気ですか?
若かりし頃に、バリウム検査で、要再検査になり、胃カメラを飲みました。飲み込むときには、ゲホゲホになり、涙が噴き出しました。それ以降も、バリウム検査で要再検査になりますが、放置しています。多分、胃の中に、うどんがたまっているのだと思います。
親切な市から電話がかかってきて、しょうがない2022年は検診受けるかと重い腰を上げ
医者から「胃がん検診はバリウムではわからないから、胃カメラを飲め」とか【つらい】こと言われ
友人から「子宮ケイがん検査ではなく、子宮体がん検査しなくては・・・」とか
検診の話すると周りがいろんな情報くれる
しょうがない2023年の検診は「胃カメラ」と「子宮体癌検査」するつもりです(-.-)
胃カメラは口からカメラを入れるより鼻からカメラを入れる方が楽と聞くので
「鼻から胃カメラ」をやる予定
沖人さんは胃カメラ検査したことあります?
最初「このホース飲むの?」と、仰天しました!!!
雑煮は、元旦と二日の朝に食べました。普段は、田舎味噌なのですが、雑煮は白味噌でした。最近、健康診断で腹周りを測られなくなったような気がするのですが、今年、健康診断をさぼったので、記憶喪失になっているのでしょうか。
お雑煮は食べた?
私は醤油味、おすましのお雑煮食べてこれから白味噌買って「白味噌のお雑煮」を食べようかどうしようか・・・実は市から健康診断結果「運動しろ」的な・・・何かそんなこと書いた封書が来てるんで・・・(-.-)
多分腹回り(へその下あたり)測りますよねぇ・・・あれ規定より多かったらしい(-.-)
「白味噌のお雑煮」やめとこうか!
昼にしっぽくうどんを食べましたが、年越しうどんも、年越しそばも食べてないので、一年が終わった気がしません。今夜、うどんをたべることにします。スーパーで、海老天を買ってきます
年越しそばを食べましたか?
前は海老天ぷらそばを食べてましたが、もうそんな元気もなくキツネ蕎麦を作って食べました。
「もう煮て味がついてる油揚げ」を買って、作ったら「甘い油揚げ」のせいでだし汁まで甘い蕎麦になってしまいました(-.-)
子供なので、一週間は洗濯しなくても大丈夫です。学ランの上着は、学期に一度、クリーニングに出すだけです.
wineさん
結果的に、相手はこれから見つけることになるのでしょう。私の経験からは、そのまま、見つからない可能性が高いでしょう
相手は誰か知らんけど...
セーラームーンの赤いジャンバースカートを毎日着ると頑張るので
毎日洗濯して翌朝乾いたのを、とにかく毎日着せてた時期がありました。
今は「プリキュア」?
住肉胞子虫(Sarcocystis fayeri)に感染した馬の馬刺しによる食中毒の可能性が示唆されているので、食べ過ぎに注意しましょう。
たまちゃん
セーラームーンミュージアムのメニューを見られたでしょうか。新国劇のスイーツと比較して、なんと華やかなことでしょう。スヌーピーミュージアムのカフェにも勝っている気がします。
まさか振られるなんて・・・太田さんがかわいそう。
こうなったら心を強く持ってファイナルに行って、
その場で胸の大きな女性を探すのが一番手っ取り早いんじゃないでしょうか。
趣味の一致はすでにクリアしたことになるし。
私はクリスマス・イブ、クリスマスともに家で掃除洗濯をしましたw
美少女を初めて読みました。タイムスリップした気分になれて楽しかったです。
セーラー戦士のペアソーダフロートの真ん中にある「セーラーマーキュリー&セーラージュビター」とても綺麗な色で見ているだけで癒されました。どんな味か気になります!
珈琲茶碗は、今で言うとティーカップのようなものでしょうか。肉まんは、ティーカップに納まりきらないような気がしますので、饅頭くらいでしょうか。ちょっと、物足りないかもしれません。
寧々こさん
どうも、女性に嫌われると思ったら、胸が好きと言い続けているからなのですね。胸が出てくる日記しか書いていないような気がします。
お気をつけください
コーヒー茶碗は大きいレベルだったのだと思われます。
今の子は胸が大きいですよね~!
大概の方が大きいのが好みの中、
埼玉県は小さいバストが好みだと思われるので、
人其々なんだなと思ったのを思い出しました(笑)
マニアは、自分の趣味を熱く語ります。太宰も胸マニアだったのでしょう。私も、太宰に負けないように、胸の探求を続けたいと思います。
涼華さん
視線を合わせられなかっただけです。地下鉄で向かい合っても、顔を見るわけにはいきません。自然と胸を見てしまうのではないでしょうか。そうに違いない。
読んでしまったじゃないですか~ (*≧m≦*)
そりゃぁ 胸のあたりを見ながら話されたら
木村さんじゃなくても、キモイってなりますよ~w
またまた一気に読んじゃいましたw
しかも切ないけど、もう面白すぎwww(*´艸`)
太宰の話が印象的でしたwそして特にここが好きです。
↓
「それは、太田さんが胸が好きなだけではないんですか。」
「胸を好きだと、いけないんですか?」
「そういうことではないですが。」
最高です(*´艸`)www