Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー24

「うふふっ またね。」
あわてて出て行くアキラを面白そうに見送ってから、霞が妖艶な微笑を要に向けた。
「要ちゃん、どうしたの?最近荒れてるみたいね。」
最近、要がいう事を聞かないと興津や梶がぼやいているのは店中が知っている事だ。
要は霞から目を逸らした。
「若いわね。あなた。」
霞は要のベッドの端に腰をかけた。
「ねえ、物事ってなかなか思うようにいかないでしょ。」
霞は要に近づき、あと数センチと云う距離で目を見つめた。大人の女のにおいがむんむんする。
「・・・あなたは、自由になりたいのね。」
要はエッと言う顔になった。霞の口元は「ほらね、正直な子・・・」と笑った。要はどう答えていいのか分からず目がうろたえている。
突然霞の顔がぐっと近づいてきたかと思うと、いきなり要の唇を奪った。柔らかい唇だ。要は思わず離れようとしたが、両手で顔を抑えつけられ舌を入れられた。体中の力が抜けるような濃厚なキスだった。
「要ちゃん、じっとしててね。」
霞はそう言うと要の病院服の前をはだけた。たくましい胸があらわになる。その胸を彼女の白い両手が円を描くように撫でながら、下へさがっていく。そのまま要の下着に指をかけ、それを下にずらした。若い要はさっきのキスでもう反応している。童貞の要には刺激が強すぎるくちづけだったのだ。霞はそれを見ると、要の顔を覗き込みくすっと笑った。そして、彼女はその反応したところを口に含むのだ。生暖かいものに含まれた要自身は本人の意思とは関係なく硬くなる。
「うっ」
霞が頭を上下させるたびに要から声が漏れる。ますます硬くなる要に霞は容赦なく首を動かす。かたくつぶった目の中で要は火花が散ったように感じた。
霞はというと、要の反応を楽しんでいる。今度は、スカートをたくし上げてショーツを脱ぐと、要に馬乗りになった。要自身を自分にあてがい、一気に落としこむ。ベッドがギシギシと鳴り、要はまた呻いた。呼吸が荒くなる。霞が腰を回すと背筋に電気が走り、要はいきなり果てた。はぁはぁ荒い息をしている要の胸を霞が細い指先でなぞる。
「かわいい・・・」
前かがみになって唇を要の胸に這わせた。
「無垢で、うぶで、まだ、何も知らない・・・」
霞は要の目を覗き込むようにして言った。
「世の中はね、楽しい事や、綺麗事だけじゃないのよ。思い通りに行かない事の方がずっと多い。」
「・・・」
「ほんの少しの自由の為に、後はみんな、必死に耐えているの。あたしたちだってね・・・同じよ。」
霞は、ベッドから降りると、乱れた髪と服装を直し、要の方を見た。
「自由を手に入れるのには、努力がいるって事ね。」
「それが、要ちゃんにできるのかしら?」
ドアの前で霞は続けた。
「寂しくなったら、おっしゃい。またしてあげるわ。」
「でも、今度は、もう少し長持ちしてね。」
いたずらっぽく笑いながら、そう言い残して、彼女は部屋を出て行った。

「俺がそんなに子供だと思ってるのか。そんなことはわかってらぁ・・・」
ドアに向かって発せられた要の声が尻すぼまりに小さくなった。
人の人生ってそんなものなのか?自由で楽しいなんてのは嘘っぱちなのか?
今まで何でも思うようにやってきた。うまくいかない事も、いつかは自分の思い通りになると信じて、がんばってきた。
悔し涙が自然と流れてくる。世の中の全ての人間が楽しく暮らしているわけでない事ぐらい、解っている。そいつらは上に抑えられ、生きるために働いて、その中に少しの喜び、少しの楽しみを見出してそれで満足しているフリをしているんだ。それは飼いならされた人間たちだけだと思っていた。俺はそんな人生は嫌だ、そんな人間になりたくない。でも、他人から見れば、石橋に居心地のいい生活を与えてられ、何不自由なく、ぬくぬくと生きていると写るのだ。そうじゃない、そうじゃないと泣きながら、要は知らず知らずに眠りに落ちていった。





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