Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー33

タイヤがジャリジャリとバラスを踏む音を立てる。聞きなれた音に要は頭を上げて窓の外に目を向けた。2ヶ月ぶりに見るガレージがそこにあった。自然といつもバイクの置いてある場所に目がいく。すっぽりとカバーが掛けられているが、シルエットを見ただけで要にはそれが自分のCB750Fだとすぐにわかった。原田が車を停めるや否や、要は車から飛び出し、駆け寄った。カバーを剥がすと、それはやはり、傷ついたCB750Fがだった。案の定ハンドルはへし曲がり、サイドステップも削れた憐れな姿だ。マフラの擦った後には砂が噛んでいるしホイールやブレーキディスクにも草がからんでいる。
「シャーシは?」
振り返ってすがるように原田の顔を見たが原田はなんとも言えない渋い顔をしている。
「見た感じでは、歪んではいないようだが測ってみないとわからないな。」
と答える。
要は急に目頭が熱くなり目に涙が滲んだ。
「俺がやったんだ。直してやらなきゃ。」
要の頬を涙が途切れなく流れていく。
「そうだな、お前が直さなきゃな。こいつはそれを待ってる。」
原田は、そう言うと、わずかに微笑むのだった。

原田は涙で目の赤くなった要を連れて石橋の部屋へ行った。ノックをすると中から梶の声が入れと命じた。原田は部屋へ入ると
「ボス、要が帰ってきました。」
と、こともなげに報告する。
要を見て、石橋は一瞬目を細めた。梶は相変わらず無表情で、眉をわずかに動かしただけだ。
「ばかめが。」
石橋が怒鳴る。要はちらりと時計を盗み見た。時間は午後10時、梶や原田が店をほったらかして、こんな所で油を売ってる暇など無いはずだ。
「いつまでのたくってたんだ、このクソ忙しい時に。」
けんもほろろだが、なぜか、その言葉に要は少し気が楽になった。ボスの罵詈雑言をききながら、だんだんと自分が受け入れられる喜びが心の中に沸いてくる。これが、石橋なりの愛なのかもしれない。いや、父親の愛というものなのかもしれない。
怒鳴り疲れたボスが咳こみながら水のグラスに手を伸ばした。すると、すかさず梶が前に出た。
「では、ビデオ室で資料が山積みですので、今日はこの辺で。」
と、うまく要を引っ張り出してくれた。
石橋の部屋を辞した3人はそろって4階のホールまで戻った。原田はそのまま、レストランへと消えていく。梶と5階へ上がった要がビデオ室に向かおうとするのを、梶が止めた。
「今晩はいい。早く風呂に入って寝ろ。」
そういい残すと、自分はそのまま下りのエレベーターに乗り込んだ。
一人5階のホールに残された要は、しばらくの間あっけにとられて閉まったエレベーターのドアを見つめていた。俺にはもう、どこにも居場所は無いと思っていた。誰にも理解されず、受け入れてももらえないと思っていた。

「ここは、こんなに、あたたかかったのか・・・」
要は引き取られて12年目にして始めて、ここが自分の家であり、石橋たちが家族であると思い始めていたのだ。

アバター
2023/02/25 02:07
なるほどね ミミズがのたくって ってことね

元の話を読んでもらうほうがええんかな

ちょっと悩み増すww
アバター
2023/02/25 01:42
お話は以前に読ませてもらっていたんですが感想はまだでしたのでちょっとずつ書かせてくださいね。
帰って来た要君は育った場所が家でみんなが家族だと思えるようになったんですね。
離れたことで温かさが分かったんでしょうね。
のたくるって懐かしい言葉でした。関東だとめめずが~っていうんですよ(*^^*)





Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.