Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー40


犬飼 明、彼は一匹狼のルポライターだった。見た目は華奢だがそれは着痩せするだけで、持久力には、かなりの自信がある。短く刈り込んだ髪に広い額、その下に結構短気そうに吊り上った眉と鋭い目、不敵な笑い皺がある口。一度獲物を見つけたが最後、地獄の果てまでも追いかける。まるで影のごとく渋太く憑きまとう彼を仲間たちはゴーストと呼んでいた。

ある熱い夏の夜、彼は行きつけのバー、トリニティーに立ち寄った。今晩は久々に懐が暖かい。出版社に持ち込んだ特ダネが言い値で売れたのだ。犬飼は枝豆をアテにボックとピルスナーをハーフ&ハーフで飲んでいた。ここのバーテン佐竹が勧めたこのブレンドが犬飼は意外と口に合いお気に入りだった。ボックだけだと黒ビール特有のコクが強すぎるのだが、ブレンドする事で、後味がすっきりする。いい具合にほろ酔いになってきた時、ドアが開いて見た顔が入ってきた。男は入り口でしばらくキョロキョロと店内を見渡していたが、カウンターの隅に犬飼を認めると、やっと見つけたという顔で足早に近づいてきた。
「犬飼さん 探したぜ。」
と息を切らせながらまくしたてる。
「おう、どうした?」
「たけちゃん、こいつにもビールだ。」
新来の客が犬飼の隣に腰を下ろすと、なみなみと注がれたジョッキがカウンターに置かれた。犬飼は男がそれを一気に飲み干すのを面白そうに眺めた。どうやら熱帯夜の繁華街をかなり探し回ってきたようだ。やっと人心地ついた男が、犬飼に顔を向けて、相変わらす早口で言う。
「あまり大きな声で言えねえんだが、大きな山だ。」
「俺が見つかったんだから、そう慌てるなよ。」
犬飼が笑いながら、それでも期待に目を光らせながら、男の顔を覗き込む。
「たけちゃん、もう一杯だな。」
注文の入る前に佐竹はもう新しいをジョッキを2つ出してきている。いつもながら察しの良い奴だ。
「で?」
男が2杯目のハーフ&ハーフを一口飲んだところで、犬飼が話を促した。
「例によって、買ってほしい情報があるんだけどなぁ・・・」
男は勿体を付けるように言う。
「ほう、今度はまともな話か?今までろくなネタがなかったからな。」
犬飼がニヤニヤしながら、男の目を見た。男は情報屋なのだ。記事になりそうな情報を見つけてきては、犬飼のようなルポライターに売るのが仕事なのだ。
すると、情報屋は急に声をひそめて顔を犬飼の耳元に近づけた。
「本当にデカイんだ、高く買ってもらえるか?」
釣られた犬飼も小さな声で
「良いネタならな。」
かと思うと、はははっと突然大きな声で笑いだした。どうも犬飼からは関西人の臭いがする。
「どうしようかなあ・・・」
情報屋は相変わらず小声だ
「嫌に、勿体を付けるな。」
「それほどすごいってことだよ。こんどは正味でかいヤマなんだ。」
情報屋は、いっそう声を低くして続ける。
「日本の政治や経済を裏から操っているクラブの話なんだ。」
「ほう・・・。で、何本?」
情報屋は犬飼の前で指を二本立てた
「そら、安いな。」
「冗談、二十だ。それだけの内容だ。」
男は糞まじめだ。犬飼は情報屋の目を見ながらにやりと笑った。
「どうもそうらしいな 駆け引きなしだぜ?」
「ああ もちろんだ。」
相手も、にやっと笑う。
「よし取引成立だな。」
「たけちゃん、ビール代はこいつ持ちだ。」
犬飼の言葉に佐竹は振り向かずに片手を挙げて応えた。
「ただし・・・」
3杯目のジョッキを受け取りながら情報屋はいつになく真剣な顔で犬飼を見つめた。
「犬飼さん、今度のネタはこのビールが死に水になるかもしれねえ。恨みっこなしだぜ。」
珍しく犬飼は身震いを感じた。本物っぽい話の時に彼の守護天使がいつも合図を送ってくれるのだ。コレは戦場を生き延びた男のジンクスだった。



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2023/02/28 01:31
アランドロンはダーバンのCMで有名やけどw

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2023/02/28 01:11
そうなんですね(*^^*)
ジャンポールベルモンドさん、お名前知ってる!もしかしたら映画とか観てるかも?
映画探して見ようかな♬
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2023/02/26 22:31
ジャンポールベルモンドが好きでね
なんとなくイメージを重ねちゃった(*´艸`)
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2023/02/26 21:49
こちらのお話読みたくなってしまったので、先にコメントさせてくださいね。
テンポがいい文章と主人公さんですらすら~っと読み終えちゃいました。
どんなお話が始まるのかな~(#^^#)




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