Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー49

病室のひろみは眠っていた。麻酔が効いている筈なのに時々苦しげに眉を寄せる。夢をみているようだ。

昼間スタジオを出て行った犬飼と入れ替わるように押し入ってきた見知らぬ男。会った事は無いが、声には聞き覚えがあった。
今朝彼女を電話でたたき起こした男だ。電話の男は彼女もよく知っている情報屋が死んだと言った。
そして彼の死に昨夜一緒に飲んでいた犬飼と言う男とトリニティーのバーテンがかかわっているとも言った。
明が殺人を犯すはずは無いが、トリニティーのたけちゃんが何かしたのかもしれないし、二人そろって変な事に巻き込まれているのかもしれない。そんな心配をして、彼女は彼を訪ねたのだ。

「ご苦労だったな。」そう男が言った時、ひろみは、自分の短慮で明を窮地に送り込んでしまった事を悟った。この男の口車に乗って、明を罠にかける片棒を担いでしまったのだ。
「明を止めなくては。」
隙をうかがって脇をすり抜けようとするひろみの顔を男がいきなり殴った。勢いよく床に倒れたひろみを男は後ろから羽交い絞めにする。逃れようと暴れるひろみのスカートがずり上がって長い両足があらわになる。
「誰か・・・」
ひろみは大声で助けを呼ぼうとした。
「声を上げるな。」
男は腰から抜いた拳銃をひろみの喉元にあてて凄みのある声で脅した。ひろみは凍りつくように動きを止めた。

抵抗しなくなった女の白い太股に目をやると男は口元に厭らしい笑みを浮かべた。指示では殴って気絶させた女を事故を装ってベランダから下の駐車場に転落させる予定だが、なにも急ぐ事は無い。
「ちょっと楽しませてもらおうか。」
男は銃口をひろみの首筋から背中にずらし、捕まえていた手を離した。
「3歩前に進んでゆっくりこっちを向け。」
と命令する。
ひろみが言われたとおりに男から離れ振り向くと、男はニヤニヤしながらスタジオからの唯一の出口である玄関の前にゆっくり移動し、通せん坊をする形で陣取った。その手には黒い拳銃がぴったりとひろみに向けて握られている。ひろみに逃げ道はない。
「まずはストッキングを色っぽく脱いでもらおうかな。」
男はニタニタと下卑た笑いを浮かべてひろみにそう強要した。
ひろみは黙ってキッチンの椅子に片足をかけた。スカートを上にたくし上げて太腿をあらわにする。そうしてストッキングを1本ずつ根元から丸めながらゆっくりと脱いでいった。ひろみはたっぷり時間をかけて脱ぎ終わったストッキングを左手で持って好色そうな顔をしてストリップを楽しんでいる男の前に突きつけた。
「これでいい?脱いだわよ。」
そういいながら、ストッキングを軽く左に投げる。
男の視線が一瞬それを追って左側に流れたその瞬間、ひろみは左足を前に大きく踏み出すと満身の力を込めて右足を前に向けて蹴りあげた。
「ズンッ」
彼女の足はものの見事に油断した男の急所を直撃した。男の手から拳銃が転がる。
「うううっ」
男はうめき声と共に股間を押さえなが床をのた打ち回った。ひろみはすばやく男の体を飛び越えてドアへ走った。しかし男の立ち直りは速い。左手で股間を押さえながらも部屋の隅まで滑っていった拳銃に右手を伸ばした。ひろみは男がご丁寧に鍵をかけた玄関のドアを開けるのに焦っていた。男は拳銃を取り上げると、セーフティーをはずしたが、股間の痛みで身体が起こせない。上半身をよじって不自由な姿勢から銃口をひろみの背中に向けるが、狙いがなかなか定まらない。やっとひろみがドアを押し開けて裸足で外に飛び出した時、
「パン、パン」
小さく乾いた音が2回鳴った。22口径のためあまり大きな音はしなかった。一発は、開いた玄関から廊下の低い壁を越えて外へ飛んでいったが、もう一発はひろみの右肩を貫いた。大きく前につんのめり、よろけながらも、ひろみはそのまま階段を転げるように駆け降りていった。とにかく早く犬飼に危険を知らせなければ・・・。

男は、自分の失敗に舌打ちをした。事故に見せかけるはずが思わず銃を撃ってしまったことに焦っていた。スタジオの玄関まで這い出ると、ひざ立ちして辺りをうかがう。聞こえるのは外で子供の遊ぶ声や、車のクラクションの音だけで階段を降りるひろみの足音はもう聞こえない。昼間のマンションは無人に近いのだろう、銃声を聞きつけた近所の人間の気配も感じられない。床にひろみの血痕が飛び散っていた。
「くそ・・・」
男は部屋に引き返し床に落ちた空薬きょうを回収し、タオルを水に浸して玄関先に戻って来た。スタジオ前のコンクリートに飛んだ血を手早くふき取るとひろみの後を追って、階段を駆け下りていった。
「・・・・・・」
ひろみは血がなるべく床に落ちないように右肩を手で強く押さえ痛みに耐えながら2階の廊下の影に隠れていた。しばらくして階段をぎごちなく降りてくる男の足音が聞こえ、2階を通り過ぎて外に消えていった。
「早く、いっちゃって・・・」
焼けるような鋭い痛みのため、気が遠くなりそうだ。ひろみは助けを求めて近くのドアの呼び鈴を押した。3軒ほどそれを繰り返したが、誰もいないようだ。平日の昼では無理もないかもしれない。しかし何時までもここに居ては、いつあいつが戻ってくるかもしれない。
「警察に・・・」
ひろみは、のろのろ立ち上がると、手すりにもたれながら1階まで降りていった。動くと傷口から血がどくどく流れる。いくら押さえてももう垂れるのを止められなかった。朦朧とする意識の中でひろみはどこをどう歩いたのか覚えていない。が、薄暗い路地裏にゴミ箱を見つけると、倒れるようにその陰に身を隠した。出血がひどい。痛みはもうあまり感じなくなっていた。
「明・・・寒いよ・・・抱いていて・・・・」
意識が遠のいていく。
「ひろみ・・・」
その時彼女の名を呼ぶ犬飼の声が小さく、それでも力強く彼女の耳に聞こえた。

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2023/03/21 00:34
ひろみさんかっこいい(´▽`*)
主人公より好きになっちゃいそうです。

しーちゃん優しい言葉をくれてありがとう♥
細やかにいつも気遣ってくれて・・・疲れた心と体に染みますわ・・・(´ω`*)
不調の最中も何度も元気をもらって大分復活してきました。
本当にありがたいです✨
昨日は炊飯器でパンを焼けるくらい気力が戻ってきましたよ~。
どうも風邪をひいたり喉が弱るとパンとか小麦粉系のものを食べたくなるんです。
ちょうどパンが切れちゃったので、材料があったから簡単作り方のでちゃちゃっと作りました。

最近ミステリのドラマばっかり聴いたり観たりしてました。
アニメのドラマのもちょっとだけ聴いたけど。
調子悪いのにミステリ?って感じだけど、好きだからかえっていい感じ脱力出来て
咳で眠れない時もかけながらうとうとしてました。
お話のネタになるといいな~。




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