Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー55

アキラは横浜からバイクですっ飛ばして帰ってきた。が、ガレージにブルーバードが見当たらない。

バイクをガレージに入れ所在無げに椅子に座ってさっきの尾行の興奮を思い出していた。
「犬飼さんほめてくれるかな・・・」
半時間もしないうちにガレージの外で車の止まる音がした。エンジン音は犬飼のブルーバードのものとは違う。パワーのある改造車のようだ。アキラは椅子から立ち上がり様子を見ようとガレージの外へ出てみると、見慣れない白いバンが停まっていた。
「お前、緊張感が無さ過ぎるぞ!」
突然バンの窓が半分開いて犬飼が低く怒鳴った。
危険の有無を確かめもせず、のこのこ無防備に出てきたアキラを叱ったのだ。
いきなり怒られてしまったアキラも自分の迂闊さに気がついた。
さっきまで、褒めてくれるかもと浮かれていた自分が恥ずかしくなる。
『そうだ、これは遊びじゃないんだ。命の危険が付いて回ってる。』
急に元気なくうなだれるアキラを見て犬飼は
「しかし、今日はお手柄だったな。よくやった。」
と相好を崩した。
バンをガレージに収めシャッターを閉めると犬飼は、
「今日はろくに食ってないだろう?」
と弁当の袋をアキラに渡した。弁当二つにしては随分重い。中を覗くと、缶ビールが何本も入っている。
「飲むだろ?」
と、犬飼が聞く。
「いただきます!」
アキラが満面の笑みで元気よく答えた。

ビール1本で顔を赤くしながらアキラは只野議員追跡の1日を筋道を立てて滔々と犬飼に話した。
犬飼はソファーに深く座ってうんうんと頷いて聞いている。
聞けば聞くほど、アキラが役に立つのが解るのだ。
「明日は神戸行きだ。また長い一日になるぜ。」
まだしゃべり足りない風のアキラを犬飼は制した。
「今夜は十分休んどけ。」
と、そうそうにソファーに横になってしまった。
アキラも仕方なく明かりを消して寝袋にもぐりこむ。
暗闇の中で犬飼は期待以上に役に立つアキラに感謝しつつも、有頂天になっているこの好青年の事が少なからず心配になっていた。
これは探偵ごっこじゃない。冷酷非情のプロが相手だという事を肝に銘じなければ命を落とす事になる。
こいつに絶対無理をさせてはいけない。
「今回は俺ひとりじゃない・・・」
ひろみとアキラの命もかかっているのだと犬飼は改めて気を引きしめた。





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