沖人さんの日記 | ニコッとタウン

沖人

勉強机の引き出しから、めぐみんのフィギュアを取り出し机の上に置いた。ぱっつん前髪で小柄な体に、黒いマントを纏いとんがり帽子を被った魔法使いのいでたち。ひたすら究極魔法エクスプロージョンを追い求める中二病キャラ。

蛍光灯に照らされたフィギュアを見た。フィギュアの楽しみ方は、壺屋や茶器を愛でるのと同じで、ただ眺めアニメの世界観にひたる。しかし、女児の人形遊びは違う。人形を使って、ままごとやお母さんごっこをする。人形に役割を与え、神のごとくふるまい、やがて、人形と同じように恋人や夫を支配するようになる。

神のごとき女子は、他人の価値観を受け入れることができず、「1体1万円もするのにバカじゃないの。それ以前にキモイ。」と恋人や夫を批判し蔑むだろう。世の中のお父さんやモテる男にフィギュアを集める男がいないのがいい証拠だ。K君は、それを分かっているのだろうか。

兄の部屋でDVDを見ながら、めぐみんの魅力や、めぐみんの夢が、「大魔法使いになって巨乳になる」ことだと知って、二人で照れながら巨乳かいいか貧乳がいいか、語り合った日々。彼女が出来れば、Kは、その夢のような時間を失ってしまう。親友である私は、Kが幸せを失うことを見過ごすことはできなかった。

私は、夕方の教室で、苦悶の表情を浮かべたKを思い出した。Kの頼み事は、クラスメートの高橋李依に彼氏がいるか聞いて欲しいということだった。

「高橋さんに、彼氏がいるかどうか知って、K君はどうするつもりなんだい？」

「分からない。」

「論理的な君らしくもない。」

「聞いてくれるのか、くれないのか。僕は、それを聞いているんだ。」

K君の苦渋に満ちた表情を見ているうちに、優越感を覚え始めた。私は、K君に畳みかけるように質問を繰り返した。

「高橋さんは、魔法も使えないし、ネコミミもついていないぞ。それに、貧乳でもない。いいのか。」

Ｋ君は顔をあげ、私の目を見つめると、憐みのような表情を浮かべた。

「君に、相談したのが間違いだった。もういい。」

「ごめんごめん、君の気持ちを確かめたかっただけだ。聞くよ、聞くよ。」

Ｋ君は、何も言わずに、教室を出て行った。

高橋さんとは、これまで、一度も話したことがなかった。高橋さんどころか、クラスの女子と話したことはない。Ｋ君の言った通り、私に相談したのが間違いなのだが、今となっては、後戻りはできない。今度は、私が、苦渋の表情を浮かべる番になった。