Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー56

目覚まし時計が鳴っている。

アキラが眠い目をこすりながら起き上がると犬飼はもう起きてガレージについたシンクで顔を洗っていた。
昨日の朝とはうって変わって、すでにレディー・トゥー・ゴーの犬飼に、アキラもあわててシンクに行き顔を洗った。
顔を拭きながらもどって来ると、犬飼がガレージのシャッターを開けて、バンを半分ほど外に出していた。
「バイクを積むぞ オフロードだ。」
アキラはアイビーを探し、壁に立てかけてあるのを見つけてきた。それをもってバンのバックドアを開けて後ろに据える。犬飼はオフロードバイクをガレージから押してきて、勢いをつけて一気にバンに積み込んだ。
アキラが中に乗り込む。要領よくハンドルをロックさせて縛りつけ、フックを引っ掛けてラチェットバンドでバンの左側にしっかりと固定した。
運転席の後ろ、バンの右半分にはひろみの為にベンチ型のベッドが取り付けてある。今はその上に大型テレビ用の大きなダンボール箱がおかれていた。
アキラがバイクを固定している間に、犬飼は電気屋のマークの入ったマグネットシートをバンのサイドと後ろにぺたぺたと貼り付けていた。
「これで電気屋だ。」
犬飼は手をパンパンと叩きながら満足そうに頷く。
感心して見ているアキラを振り返ると、
「ここのうちの人がシャワーを使えとさ。よっぽど臭いらしい。」
と苦笑した。そして、母屋に向かおうとするアキラに電気屋の名前の入ったつなぎを投げてよこし
「風呂が終わったら、これに着替えろ。」
と言った。
 シャワーでさっぱりした二人は、つなぎに着替え、やはり家の人の用意した簡単な朝食を済ませて最後の打ち合わせをした。
まずは9時になるのを待って女医の診療所にひろみを迎えに行く。その足で神戸に発つ。
神戸の病院にひろみを預けたら東京に戻ってきて、クラブの捜査を続行する。
アキラが手順をよく理解しているのを確かめると、犬飼は診療所に電話を入れた。女医が出る。
「珍しく朝早いわね。あんたの事だから昼は過ぎると思ってたよ」
「俺は何事も早く早くが好きなんでね。」
「はは、それは初耳だね」
含み笑いをしながら女医は準備の整っている事を告げた。
「気をつけなさい。表はどうも張られている。」
女医が声を落としてそう言った。
「そうか・・・。」
犬飼の顔が曇る。
「で、センセ、昨日、電気屋には行ってくれた?」
「ああ、注文どおり大型テレビを見てきたよ。」
「じゃあ、センセ。30分後。」
犬飼はそう言って電話を切った。

「よし、いくぞ。」
シャッターを閉めて走って来たアキラが助手席に乗りこむ。
「ひろみを引き取ったらおまえはうちに帰れ。」
犬飼がバンを走らせながら言った。
「え?」
「センセによると、診療所は見張られているらしい。」
「ひろみの事をかぎつけたかどうかはまだ解らんが、こいつらのうつ手の速さはプロ級だ。」
アキラは犬飼の横顔を見つめていたが、やがて口を開いた。
「犬飼さん、俺じゃ頼りになりませんか?」
「頼りになるからこそ心配なんだ。」
「俺は犬飼さんの役に立ちたいんですよ。」
「これが映画なら『よし、行こう』と言えるところだが現実は違う。」
犬飼が続ける
「3、4日で神戸からは帰ってくる。そしたらまた連絡係として手伝って貰うよ。」
「でも、けが人のひろみさんがいたら、一人では動けませんよ。」
「お前を危険に晒さないだけマシだ。」
「・・・」
「男気はわかるが今はだめなんだ。」
犬飼はたたみかけた。
しばらく押し問答の末
「とにかくおまえはここでおとなしく待ってるんだ!」
犬飼は、これで話は終わりだとばかりに語気鋭く言い放った。
「・・・わかりました。」
アキラがシートに深く座りなおして言った。
「そんなら俺、神戸のダチんとこに行く用があるんです。方向が一緒なので乗せてってください。お願いします。」
文句は言わせないという勢いだ。犬飼は思わずアキラの顔をみた。
「くそっ、しょうもない所だけ頭が廻るな。」
犬飼は折れた矛先を収めて笑うと、アキラもさっきの真剣な顔つきとは打って変わって笑い顔になった。

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2023/04/16 02:42
オツカレイン。
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2023/04/16 01:58
いつもメグチー。
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2023/04/16 01:14
あるがまま。




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