Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー62

興津がすぐに手術を受け、短期だが入院する事になったので、原田は要を連絡係として残し、自分は一旦店に戻っていった。興津の部屋に入ると
「まったく世話の焼けるおっさんだ」
と、一人ゴチながらタンスをあけて着替えと洗面道具その他諸々を引っ張り出し紙袋に纏め上げる。

そこへ梶が入ってきた。
「どんな具合だ?」
と聞く。
「盲腸だな。1週間ほどで退院だろう。」
「なるほど。」
梶が頷く。
原田は手に持った紙袋を梶に渡した。
「俺は昼から須磨の下見が入ってる。井上医院までこいつを届けてくれ。」
梶は、仕方ないなと言う顔で袋を受け取り部屋を後にした。

エレベーターの箱に入った梶は1階ではなく4階の店のボタンを押した。
店の裏の通路から表のホテルへ渡る。
昨夜遅く到着した横浜からの客、斎藤の様子を見に行く為だ。
部屋のドアベルを押すと、斎藤が中からドアを開け、梶を中に招きいれた。
お互いに軽く会釈をするだけで挨拶はない。
梶はちらりと部屋の中に目を走らせた。窓際にある机の上に、梶が昨日渡した議員の資料が広げられていた。
「コーヒーは?」
斎藤が聞いた。
「いや、結構。」
梶はもっぱら紅茶党でほとんどコーヒーは口にしない。それよりも、いけ好かない相手とお茶を飲む趣味はなかった。
斎藤の体格は痩身の梶よりかなりガッシリしているが背は少し低い。
服装、髪型は倶楽部の従業員らしく洗練されている。
手堅く世の中を渡っているような表情の中には、常に情報室に席をおいているエリートだということを鼻に掛けている感がある。
ただ、今朝の斎藤は随分くたびれて見えた。
「最近 勝見議員の動きにおかしなところはないか?」
斎藤が聞いた。
「神戸が把握している資料は昨夜渡したはずだが?」
梶は机を顎でしゃくった。
机の上には梶の資料のほかにも書類の山がある。
斎藤の赤い目と、その下のクマから判断するとどうやら、一睡もせずに2つの資料と比較検討したらしい。
努力の甲斐なく不審な点を見つけられずにいる様子だ。
「資料は本当にこれだけなんだな?」
斎藤が恨めしげに念を押す。相当いらついているのが解る。
「何も隠していないな?」
この言葉に、梶は眉を吊り上げた。
「ほお、聞き捨てならんな。この私が三代目に隠し事をしているとでも?」
「そうか、いや、それならいい」
内心『こいつめ・・・』と舌打ちをしながらも、斎藤は引き下がるしかなかった。
昔はともかく今は倶楽部の一員でも無いこの男に三代目がなぜか信頼を置いているのを知っているからだ。
斎藤は常日頃からいつかは情報室の室長に、あわよくば田中の後をついで四代目田中一郎になるべく野心に燃えていた。
その為にはなんとしてでも神戸で土産を引っ張り出さなければならないという危機感があるのだ。
急に口をつぐんだ斎藤は諦めたようにもう一度勝見議員の過去2年間の来店履歴と東京の資料を広げて見比べ始めた。梶はそんな斉藤をしばらく無表情に眺めていたが
「私は出るが、何かあれば店の原田に聞くと良い。」
と、わざと外出していて捕まらないであろう原田の名前を残し部屋を出ていった。

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2023/04/27 18:09
しーちゃ!ただいま!今仕事から大急ぎで帰ったら!2270だった!もう1度行って残業済ませる!明日は残業したくないもんね!
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2023/04/27 16:47
完売しました!!(*‘∀‘b)b【ぁりヵゞ㌧♪】




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