Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー69

原田が5階から降りてくるのを待つ間に、斎藤はなんと言っても、自分が指揮官になるのだから横浜から来る男たちに事前に連絡を入れるのがいいと思った。
「ちょっと電話を貸してくれ。」
と、梶に頼む。

別に断る理由もなく、梶は一歩下がってカウンターにある電話機を目で示した。
田中がFAXで知らせてきた本田のポケベルに掛ける。
「ここの番号は?」
と梶に聞きつつ、教えられた番号を入れる。
斎藤が受話器をおいたところに、原田が降りてきた。
斎藤は一歩前に出て
「ああ、君が原田君か。昔、倶楽部で会った事があるな?」
と大様に笑い、握手の手を伸ばしてきた。
原田は仕方ないという様子でその手を握りながら、
「倶楽部で俺は情報室詰めでしたから。」
と答える。
斎藤の知っている原田はまだ20代の若造だ。この男の天才的な運転技術を知らない斎藤にとって原田は情報室詰めとは言え、エリートではなく主に石橋の運転手を務めていただけという印象しかない。
それが斎藤には見当違いの優越感を持たせたようだ。
一方原田にとって斎藤は18年前からいけ好かない男だった。
『だから、さっき、要を推したんだ。』
とばかりに運転手として自分を指名した梶をちらりと睨む。
もちろん梶がそんなことで怯むはずもない。
5分ほどすると電話が鳴った。
「斎藤だ。」
当然のごとく斎藤が受話器を取る。
「本田か?」
「・・・聞いていると思うが、お前たちの指揮は今から私が執ることになった。」
斎藤の言葉の端々には自分が司令官役だという自負の念がありありとしている。
「現在位置は?」
「浜松を越えたところです」
「神戸は時間通り7時だな」
「はっ、予定通りです。」
満足げに頷いて、斎藤が目を上げた。
「原田の車の車種は?」
と梶たちに聞く。それまでなにやら真剣に声をひそめて話し込んでいた梶と原田は同時に斎藤のほうを向いた。原田が
「ナンバーが00―01黒のクラウンです」
と答える。
「南出口のタクシー乗り場でナンバーが00―01の黒いクラウンが待っている」
斎藤は言葉を区切ってゆっくりと喋った。
「運転手は原田と言うと男だ。いいな。」
梶が肩をすくめた。なんとなく喋り方が田中を模しているようなのだ。
「私は先に病院へ行く。落ち合う場所は駐車場入り口だ」
斎藤はそういって電話を切った。
「原田、先に斎藤殿を井上医院までお連れしてくれ」
梶がカウンターに戻りながら事務的に言った。
「新神戸はそれからで十分だろう」
「解った」
原田がそう答えるや、斎藤は早々にエレベーターに向かった。
その後を追う原田が梶の横で一瞬歩を止めた。梶が目を上げかすかに頷く。
原田もそれに無言で応えエレベーターホールに消えていった。

アバター
2023/05/08 23:25
早速!残業!グス!今週もよろしくお願いします!
アバター
2023/05/08 23:18
し~ちゃ、こんばんは。
今日は雨は上がりましたが、ちょっと肌寒い一日でした。
アバター
2023/05/08 21:14
ありがとうございますー^^




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