私にとっての足長おじさん
- カテゴリ:日記
- 2023/05/31 08:57:29
私にとっての足長おじさん
1
物心付いたころには私は病室の中だった。
病名は先天性頭蓋顔面異常。
砕いた表現で言えば顔の骨が足りず奇形を起こしているのだ。
・・・私は女の子だというのに。
容姿がなにより重要と認識するはずの女の子なのに私の顔は醜い。
お父さんは私を腫れ物のように扱う。
私は愛人の子。
親の家族も私をあんまり大事に思ってくれない。
お母さんはお父さんに愛想を尽かし連絡もしてくれない。
私の友達はハムスターのトムだけ。
でも・・・おじいちゃんはそれでも子供だからと医療費は出してくれた。
他の何もやってくれないけど・・・それだけはありがとう。
2
お父さんは金持ちの家で産まれたようで他に才能も無いのにモテたらしい。
そして、私という子供を作って責任放棄して正妻との家庭でのんびりしている。
先天性頭蓋顔面異常の治療は整形だ。
足りない骨を継ぎ足し顔を作り直す。
・・・これがものすごく痛い。
何で私はこんな苦しみをしなくてはいけないの?
そう自問自答しても現実は変わらない。
お父さんが面会に来たかと思うと「なんだ。お前。醜いなぁ。そんな醜いのが俺の子か?」
お父さんは笑っていた。
これには看護師も「なんてことを言うんですか?こんなに頑張っているんですよ」
と怒ってくれた。
それから二度と父さんは来なくなった。
でも『醜い」』という言葉が私の心に深く深く突き刺さる。
3
私にとっての足長おじさんにあったのは対人恐怖症に苦しむある日のことだ。
おじさんはひょっとこの仮面を被り
「お嬢さん。欲しいものはあるかい?」
と言う。
私は「じゃあ、その仮面を下さい」と言うと。
おじさんは「このひょっとこは私のだ。君にはこの狐の仮面をあげよう」と言う。
準備がいい。
「・・・その代わり。おの手術が成功したらその仮面とこの箱と交換だよ」
4
痛い。顔面の骨を補強するということは顔の多くを切開するということなのだ。
麻酔が切れるたび気が狂いそうになるほどの苦しみがある。
おじさんはあれからあって居ない。
自分の顔を見たくないので部屋に鏡はない。
窓も自分の顔が映るのが怖いので段ボールで覆ってある。
テレビは見れるけど無性に他人の美しい顔がうらやましくなる。
それから1年がたっただろうか。
私は診察に来た看護師の前でも狐の仮面を外さないけど仮面の下も包帯に覆われて私の顔を確認できないだろう。
5
包帯が外されていく。
私の素の顔があらわになる。
病院の先生は「成功だ」と言っていたけど信じられない。
どんなときも狐の仮面は外せない。
おじさんが見知らぬ女性を連れてきた。
「お嬢さん。約束の日だ。仮面を返しておくれ」
「・・・嫌。私は他人に顔を見られるのが嫌なの」
「君。自己紹介してくれ」
「私は化粧専門店で30年勤務しているプロです。・・・私を信じてくれませんか?」
私はここは病院という隔離空間だからという思いがあった。
6
初めて化粧と言うものを体験する。
ファンデーション。?
眉毛を整えられる?
鼻毛?
アイライナー?
口紅?
「出来たわ。鏡を確認して」
7
鏡を恐ろしいと思うようになったのはいつの頃からだろう。
他人との違いを認識した頃からだろうか?
私はそれでもおそるおそる鏡に映る自分の顔を確認する。
・・・美人というわけではない。
でもそこにあったのは普通の顔だった。
あれだけ私がうらやましいと思っていた普通の顔。
私は涙が止まらなくなった。
今までの苦しみを吐き出すように。
8
狐の仮面と交換にもらった箱は先ほどの女性が選んだ化粧品だった。
まだ・・・自分の顔が怖いという思いはある。
すっぴんでは人前には絶対にでない。
でも、あのおじさん。私にとっての足長おじさんに感謝している。
私の親が突き落とした絶望から救ってくれた人。
9
「院長。また、ひょっとこの仮面を使うんですか?」
やはり才能あるな
モデルもいる?!
え、えええ。
それを書き起こすのは大変な作業でしたでしょうに。。。
すごいなぁ。。。
痛みも何もかも受け止めて書くのは…
労力が…。
親が無責任でなおかつ容姿を否定するなんて!!!
(容姿否定だけは経験済み)
病気の治療が成功して幸せを掴んだ彼女にこの先のさちあれ。
って初めて読んで一気読みして出てきた感想がこれですみません
病名をこれにしよう、とかはどこから発想がくるのか。
それをこうして、あーして、って筋書きを固めていって作品にするって
大変な作業ですね。。。
ありがとうございます、読ませていただいて感謝します。