Nicotto Town


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月と赤い糸 第三章

第三章

仕事を終えた私はとてつもない疲労感でメイクも落とさずに、夢の中へと堕ちていった。
彼と出逢ったのは、確か春頃だったか、とても天気の良い暖かい日だった事を覚えている。
出逢ったと言っても、ネットの世界の事なのだが。
彼が私に声を掛けてくれた事で文字だけの会話が始まっていった。
彼は私の過去を知り、涙してくれた唯一の人になった。
彼の涙で、笑って文字のやり取りをしていた私も泣いてしまっていた。
「君のせいだ」と泣かせてしまった彼の声だけが送られてきた。
私はその声を初めて聞き、一緒に泣いていた。
とてもとても優しそうな声だった。
嗚咽を抑えるのに必死になりながら私は心に封印していた記憶と共に、泣いた。
私が求めていた「愛情」だった様に今では感じている。
私の過去を知り、泣いてくれた人は誰一人いなかったからだ。
人それぞれ反応はあったものの、「可哀想」だの「笑」だのと言った反応ばかりだった私の出逢いの中で
「たった一人」泣いてくれた人だった。
彼はそれでも私に「笑顔でいて」と言い、寄り添ってくれた。
そしていつもの様に「強くいて」と。
彼はとても若い青年だった。
私には手の出しようがない程の若さだったのだが、彼は私に恋をした、と伝えてくれた。
そんな彼はとても美しい目をした外国人だった。
私は、今と言う時間を精一杯生きたいが為に一瞬で終わるであろう恋を選んでいた。
ふと頬が濡れている事に気付き、私は夢から現実へと引き戻された。
彼と出逢った頃を思い出すと心が傷む。
酷く、深い傷を私は負う事になるのだから。
私は気怠い身体を起こし、メイクを落としお風呂に入った。
時刻はもう23時近くになっていた。
今夜はどんよりと重たい雲が掛かっており、月を眺める事は出来なさそうだった。
雨が降りそうな夜だったが、少しでも夢での動揺を取り払いたくて、
玄関先へと向かう。
煙草を1本咥え、火を点ける。
深く深く呼吸をする様に私は煙草を吸い込み吐き出すといった動作をなるべくゆっくりと
時間を掛けて繰り返していた。
空はとても暗く、私を闇へと連れて行きそうな程漆黒の黒い空だったが、
今、此処で吸っているだけの煙草が私をなんとか現実へと繋ぎ止めている様に感じていた。
部屋へと戻るといつもの様に、猫が私を見つめてくれていた。
猫はとても眠たそうに私を見つめてくれていたから、「一緒に寝ようか」と声を掛け、
一緒にベッドへと潜り込む。
もう、泣かなくて済む様に。
大事に大事に猫を撫でている様で私は私自身を包み込むようにタオルケットに包って眠りについた。




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