月と赤い糸 第五章
- カテゴリ:自作小説
- 2023/06/10 01:14:19
第五章
段々と寒くなる季節になって来た頃、相変わらず私は夜空を見上げては煙草を吸っていた。
今日は冷たい雨が降っている。
私は彼から離れようと決めてから、最後に「どうして強くいなきゃいけないの?」とだけ
メッセージを送っていた。
私が察した事は伝えてはいけない気がして。
彼の心を傷付けてしまいそうだったからである。
それからというもの、彼からの返事はない。
私はそれで良かったのかもしれないと思う様になっていた。
人の心無い言葉を貰ってしまうより、独りの時間を大事にしようと感じ始めていたのである。
私はそれから、沢山の事をしてみる事にした。
メイクや着替える事、料理をする事、身体を少しでも毎日動かして行く事。
色んな事をする様になって私の心に平穏が戻りつつある日々だった。
そんな平坦だが心の余裕が戻ってきたある日、彼から唐突に「Hi Queen」と連絡が来ていた。
私には分からない感覚だった。
何故私が、彼の「女王」なのか。
私は戸惑ったが、返事をしてみる事にした。
ノリの良いリアクションを取る様に、私は「Hi prince」と。
彼は喜んでいる様に思えた反応だった。
私はすっかり彼に愛想を尽かしていたため、何とも思わなくなっていた。
薬を飲んでも眠りにつく事が出来なかった私は寒空の中煙草とジッポを持って外へと出てみる事にした。
冷たい雨は雪へと変わっていた。
寒空の中煙草を1本吸い終えた私は部屋へと戻り、彼との会話を再開する事にしてみたのだが
彼の考えている事は何一つ分からなかった。
私はきっと心を失くしてしまったのだろう。
つまらない会話を続けている内に、明日は何をしようかなんて事を考えていた。
時間ももう深夜の1時を過ぎようとしていた頃、彼は私に「出逢ってきた中であなたは1番優しい人だった」と
言っていたのを覚えているのだが、私は嬉しくも悲しくもなく只、淡々とその言葉を受け止めていた。
これからは「人を信じる事を辞めよう」と思った瞬間でもあった。
私はこの先「人生のパートナー」と呼べる様な相手に出逢えるのかだけを考える様になっていた。
結婚は望んでいない、只傍に居る人が欲しかったのである。
私は最近買っていた香水を纏いながら、ふと思った事だが、人生は一期一会だ。
そんな中で「信用出来る人」に出逢える機会はとても少ないと思う。
私に人を見る目がないだけなのだろうか。
それもそうなのだろうが、人とはあまり関わりたくないな、と思いつつ煙草に手が伸びていた。
ほんの少しパウダリーのする香水は私の心に平穏を与えてくれた。
また香水へ手を伸ばし、ほんのりと香る心地に酔いしれる。
なんだかとても心地が良い。
カメラでも持って外へと出てみよう、そんな真夜中だった。
今夜は月が出ていない夜だった。
変わらざるを得なかったのですね 生きるために。
切ない ただただ切ないです。