Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー82

「実はな・・・」
一呼吸置いて頭にとんでもない言い訳を浮かべた。
「実は・・・犬飼さん、東京で代議士妻と浮気したんがばれてもて神戸に逃げてきたんや。ほんなら昨日の晩追いかけてきた旦那に見つかってもて、殴られたんや・・・」
とまじめ腐った顔で言う。

期待に胸を膨らませてじっと聞いていた華里奈は急に噴出した
「そんなあほな~。」
と、笑い転げる。身体をよじってひーひー笑う華里奈に、アキラも笑い出した。
「冗談やん、そこ~笑いすぎ~。」
「だって何ゆうんか緊張して待ってたら・・・ 笑うやろ。」
目に涙を浮かべながらまた笑らう。その様子を見ながら
『あはは、やっぱりあかんか・・・』
とアキラは自分の創作性のなさを恨んだ。その時目の前の通りをバイクが数台走り去るのが見えた。
アキラは、それにぴんときて、
「ほんまは・・・」
「・・・犬飼さんは雑誌記者やねん。」
「ええ~?」
華里奈はまた身を乗り出した。
「カッコええやん。で、どんな雑誌なん?」
どうも、女性ファッション雑誌かなにかを想像したらい。
アキラは華里奈の過剰反応に困惑しながらも
「あ、えっと。バイク雑誌や。」
と、取り繕った。
「カ、カワサキの新型バイクの取材やねん。」
女の子はバイクには疎いとタカをくくったのと、バイクの事なら少々突っ込まれても何とかなると考えて、咄嗟に口からでまかせを言ったのだが、あいにく華里奈は単車の免許をもち自分でもツーリングに出る事があるようで
「えええ?どんなバイクなん?」
と目を輝かせた。

「チーズバーガーお待たせしました。」
顔を上げるとさっきのウェイターだ。
アキラを敵対心丸出しの目で睨んでいる。
アキラはちょっと面白くなってまた標準語に戻すとウェイターの反応を片目で見ながら
「華里奈ちゃん、ケチャップいるよね?」
と慣れ慣れしい態度で華里奈の皿にケチャップを入れてみせた。ウェイターは苦々しげにテーブルを去っていく。
その様子を華里奈もくすくす笑いながら見ていたが
「で、アキラ君もカワサキに取材に行くのん?」
と話を戻してきた。よっぽど好きらしい。
「そやねん」
アキラは自分のハンバーガーにケチャップを塗りつけた。
「明石にカワサキの工場があるやろ。」
「うんうん。」
「あそこで極秘裏に開発されてんねんで。」
「へえー、それで神戸に来たんや。 」
「うん、コードネームN600の開発を中止したのは知ってるやろ?」
「うん 知ってる。」
アキラは華里奈の耳へ手を当てると声を潜めて
「それがな、こんどはコードネームニューヨークステーキ・・・」
「え~っ ニューヨークステーキ? 何それっ???」
「分厚い肉のこっちゃ。」
「あははっ またまた・・・」
華里奈はまた冗談を言われたのかと大きな声で口にした。
「あほ、大きな声でゆうたらあかんやん」
華里奈はぺロット舌を出して「へへっ」と笑う。
アキラは小声で
「軽量で軽快やから加速がごついええねん。シグナルグランプリに強いって話や。」
「うんうん、0~400なんぼやろ?」
「82馬力だって話やから、12秒台前半、それもかなり前の方やろなあ。」
「すっご~~い。アキラくん、欲しいんやろ?」
「いやあ、俺はninjaが好きやねん・・・」
「うっそー ほら、顔に書いてあるよ。」
「・・・」
あまりに簡単に信じてしまった華里奈にアキラは少なからず戸惑いながら、
「誰にも喋ったらあかんで。まだ内緒や、ええか?」
と釘を刺した。
それでも、思わず調子に乗って、
「ほんでな、雑誌社の編集長が俺を指名して犬飼さんの連絡係に抜擢してん。」
「ええ~、すごいやん。」
華里奈は明らかに熱い目でアキラを見つめている。
かなり誇張やハッタリも交じっているのに、アキラが何を言っても感動して聞いてくれるのだ。
アキラはどんどん有頂天になっていった。二人が好きなバイクの車種の話で盛り上がっている所に、セールスマンの一団がドヤドヤとパーラーに出てきた大きな声で話し始めた。
「出よか?」
「うん。」

店を出たアキラ達は足を病院に向けた。3時を15分ほど過ぎている。華里奈の休憩は3時半までだが、要の様子が気になった。女の子と歩きなれていないアキラが少し足早に歩き始めると小柄な華里奈はコンパスの差でたちまち遅れ気味になってしまう。
「アキラ君、まってよ~。」
口をへの字に曲げて不平を言う。
「ごめん、ごめん。」
アキラは振り返って華里奈を待った。
華里奈は小走りにアキラに追いついて腕を絡めてきた。
「ふふっ」
アキラの腕を自分の胸に押し付ける。
病院の駐車場まで戻ってくると、華里奈はすぐに病院に入らず、人気のない駐車場の一角にアキラを導いていった。
「まだ10分あるもん。」
アキラは引っ張られるようにして大きな楠の木陰に連れて行かれた。
華里奈が大きな木の幹を背に明の首に両腕をかけて顔を近付けてくる。
一瞬二人は目と目で見つめあう。華里奈がくりくりしたその可愛い両目を閉じると、アキラは彼女の腰に両手を回し静かに唇をかさねた。

夏の昼下がり、セミ時雨だけがうるさいぐらいに駐車場に響いていた。

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2023/06/10 22:12
こんばんはぁ(*´ω`*)
明日から雨が続きます(/ω\)
台風も近くを通るみたいでそれも影響するって(;´∀`)
今の時期の雨は仕方ないですが、台風は勘弁してほしいですねぇ(^^;)
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2023/06/10 21:30
しーちゃ!今週もどうもありがとう!
アバター
2023/06/10 19:03
↑し~ちゃんの事だと思ってドキドキしながら読んじゃったw
分厚いステーキも唇もおちりもそそられる~w

結局のところ男は元気で単身赴任でお給料をきっちり振り込んでくれればいいって事ねw
アバター
2023/06/10 18:07
はあ~やっぱりしーちゃんのお話はドキドキするわ~。
表現から色んな香りがしてくるみたいな感じ(●´ω`●)

昨日はありがとう~♥
そう言ってもらえて嬉しいよ。
そしてゆっくり眠れてよかった(´▽`*)
メイドさんコーデ可愛かったです(⌒∇⌒)
それからお話の事でも色々提案してくれて嬉しかったです✨

私も昨日楽しく過せたからか、気持ちも体も軽くなってすっきりいい気分です~♬
昨日は部屋掃除でいっぱい動いてたから、今日は長く眠ってお参りは無理せずに
明日にすることにしました。
この後の時間も部屋でゴロゴロしながら本を読んで、ちょっと片付けもしつつ、
お話もまとめようかなと思ってます。




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