月と赤い糸 第六章
- カテゴリ:自作小説
- 2023/06/10 23:19:23
第六章
街はすっかりとクリスマスムードになる季節になりイルミネーションがあちこちに施されていた。
仕事終わりに、帰ろうと思って歩いていた私は明日がクリスマスである事に気付いた。
明日に一人でケーキなんて買う人もいないだろうという考えが過り、
私は少しお洒落なケーキ屋へと向かう事にしたのである。
少し洒落っ気を纏うそのお店はとても素敵な雰囲気だった。
私は「ショートケーキを1つ下さい」とお願いし、会計を済ませた。
家に帰って私はすぐに、ケーキを冷蔵庫へと仕舞い、お風呂へと向かった。
ここ最近は食事もなかなか採る気になれず、私は湯船に浸かりながら、
「ケーキなんて買って食べるんだろうか…」そんな独り言と共にいつも以上に長く浸かっていた。
お風呂から出た後、私は折角温まった身体を冷やすかの様に
テーブルへと置かれていた煙草を手に取り、ベランダへと向かった。
ベランダから見えるそれぞれの家の灯りがとても幸せそうに見えた。
「寂しいな…」久しぶりに出た言葉と共に煙草へと手が伸び箱から1本取り出し
ゆっくりと吸う事にしたのである。
煙草を咥え、ジッポに火を点けゆっくりと煙草へと火を移す。
温かい家族がある様な家庭に憧れていた幼い頃を思い出しながら、
私は煙をゆっくりと吸いそして吐き出す事をしていた。
そして、夜空へと目を逸らす。
月はとても美しく光っていた。
あれから彼とは一切の連絡を取っていなかった。
私は月の光に癒されたのか、彼へとメッセージを送ろうとスマホを持っていた。
まるで月に後押ししてもらうかの様に。
これで最後になるだろう、そう思いながら、私は彼に「何も言えないよね、ごめん、私の事は忘れて」とだけ
送っていた。
私は彼を責め立てる訳でもなく、ただ「さよなら」が言いたかった。
さよならとハッキリと伝えられる程、私は強くなく、そしてそれは彼も同じだと思っていた。
「唯一の人」だった人は「曖昧な関係の人」へと変わっていただけなのだ。
それが分かっただけでも私には大きな収穫だった。
私は気分を変えようと思い、買ってきたケーキを食べる事にした。
クリスマス前だからなのか、店員さんの優しさだったのかは分からないが蠟燭が1本添えられていた。
私は電気を消し、蝋燭に火を点けケーキに刺した。
今夜の月の様な光を放つその光をいつまでもいつまでも見つめていた。
ボーっとし過ぎてケーキに蝋燭が付きそうになる頃、私は蝋燭の火を消し、部屋の電気を付け
ケーキを食べる事にした。
くどくない甘さのケーキは今の私にはピッタリだった。
いつの間にか乾いてしまっていた髪の毛だったが、明日は休みという事もあり、私は寝転がってみた。
空を見上げる様に寝転がり、月へと手を伸ばす。
「あなたは幸せ?」と誰に聞くわけでもない質問を投げかけ、その手は煙草へと伸びる。
月を見上げ寝転がりながら吸う煙草は格別に美味しかった。
今と言うこの瞬間の時間も愛おしく思える瞬間だった。
猫はすっかり眠りに落ちていて、私と煙草と猫との空間だけが現実だった。
私は誰かを愛する事が出来るのか一瞬不安が過ったが、このまま月を見上げて煙草を吸って居たくて
煙草を吸う事だけに集中する事にした。
ふと目が覚めた頃にはとっくに真夜中になっていて、私は夢を見ていた。
ちゃんと薬を飲まなければ、そう思い歯磨きをして薬を飲んで眠ってみる事にしたのだが
目が覚めた時に一瞬見えた月が忘れられなくて、またカメラを持ち出し、写真を撮っていた。
1年と言う月日はあっという間だな、と思う事が増えて来た。
明日はクリスマス、其れさえ過ぎればまた来年という年になる。
来年は良い事があると良いな、なんて思ってみたりもする。
眠りにつく前に、もう1本だけ煙草を吸って眠ることにしよう。
寝転んで吸うたばこの美味しさ
曖昧な関係に終止符を打つクリスマス
時は経ったんだな って悲しくなりました。
でも 生きていて良かった。
辛く悲しい日々の連続だったのだろうけれど。