Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー93

「なかなか面白いな。」
原田が言うと、
「ああ、俺の知ってるのはそこまでだ」
興津はベッドの端に座りなおして原田に聞いた。
「で、お前の方の情報は?」
「俺の情報は、どうやらその面白い話に繋がりそうだぜ。」
原田がにやりとする。
「俺はおととい梶に言われて斎藤をここまで送ってきた。病院前で下ろしたあいつの後をつけて中に入ったら、どうやら目標はこの隣の部屋だった。」
「ビンゴ!」
興津が話に乗ってきたのを確かめて原田は続ける。
「梶は俺に、『斎藤たちの要求は最大限聞いてやれ。しかし目を離すな』と言った。」
「ほう、で、車を貸したんだな。」
興津は原田に確認してから
「黒のクラウン、0001か?」
「はは、お前が駐車場で見たのがそうさ。」
「それが今朝ボコボコになって帰ってきた、どうだ?」
「ふん、女っ垂らしにしては大した想像力だな。」
興津は当たり前だと言う顔で
「女を乗せた黒い軽四を追いかけていったからな。そいつに神戸の裏道をちょこまか逃げ回られたら結果は火を見るより明らかだろうよ。」
原田は車の傷を思い出して笑いながら
「お陰でくだらん仕事が増えた・・・」
とため息をついた。

「昨日の朝、作戦に失敗した斎藤の姿がホテルから消えた。」
原田が静かに言った。
「それが、倶楽部、いや、田中のやり方だ。」
興津が吐き捨てるようにつぶやく。虫の好かない男ではあったがあまり楽しい最期ではない。
「ああ・・・」
憂鬱そうにそう応え、原田が続ける。
「アキラたちの行方を引き続き部隊の男達が追っていたが、どうやら見つけたようだ。」
「うーん、面白くないな。」
興津が難しい顔をする。
「ああ、面白くない。」
原田もしばらく沈黙したが、気付いたように、
「ひろみと言う女を連れ去ったやつらに心当たりは?」
と聞いた。
「誰かはわからんが、誘拐した奴らは、犬飼と女を殺すつもりがなかった事は確かだ」
「倶楽部とは別ということか・・・」
倶楽部のやつらならさっさと口を塞いでいるだろう。

興津が頷きながら、
「それから、最新情報だ。アキラが病院内をうろついているのを見かけたぞ」
と、にやりとする。
「やつらもとっくにそれを見つけてるんだぞ。どこが最新だ?」
文句を言う原田をさえぎり、
「そのアキラと一緒にいる犬飼に化けているのが・・・」
「・・・誰だと思う?」
勿体つけてそう言う興津の口元がますますにやけている。
「犬飼本人じゃないのか?」
原田は犬飼が東京に戻ったのを知らない。
「うまく化けてるつもりだろうが、ありゃ、要だな」
さすがの原田も、これには『ううむ』とうなった。

「じゃあ、こっちも最新情報だ」
原田が言った。
「今朝、要が桜とツーリングに行くからドッジを貸してくれって言ってきた」
「なるほど・・・桜とドッジか・・・」
興津が顎に手を当て、
「・・・それで、お前の疑問は梶と石橋さんがどっちの味方かってことだな?」
と聞いた。
「そうだ。しかし、梶に聞いても何も答えないだろう・・・」
「ああ、梶の秘密主義には反吐が出る」
興津が言う。原田はそれを聞き流し、
「で、お前はどうなんだ?」
と同僚の顔を覗き込んだ。
「俺か?・・・」
「・・・俺は、自分の直感に従うまでさ」
興津の口元がニッとなった。自信があるのだろう。
「それが聞きたかったんだ。じゃあ 帰るぜ。他に何かいるか?」
「そうだな、ユンケルでも差し入れてもらおうか?」
「高い情報料だ・・・」
興津の言葉に満足して原田は部屋を出て店に帰っていった。





Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.