刻の流れー98
- カテゴリ:自作小説
- 2023/07/17 14:16:09
段々と空が愚図ついてきた。重く垂れ込めた雨雲が横浜を覆っているのが見える。
思ったより道は空いていて、犬飼は8時過ぎには倶楽部の建物が見えるあたりまで来ていた。
そこは、横浜でも特に古い町並みが続く一角のようだった。
その中にあって、犬飼が初めて目にする倶楽部の建物は、すっかり古ぼけた洋館で回りの景観に溶け込んでしまっていた。
倶楽部の周りをぐるりと一周した犬飼は、そこを離れてあらかじめ候補に上げていたカメラ・スポットに向かった。
倶楽部の周りをぐるりと一周した犬飼は、そこを離れてあらかじめ候補に上げていたカメラ・スポットに向かった。
古い町には古く、大きな木が付き物だ。
案の定、はじめの2つのスポットからは木が邪魔をしてうまく倶楽部をのぞく事が出来ない。
3軒目の団地の屋上に通じるドアを抉じ開けた頃には時間は9時になろうとしていた。
「こりゃ、好都合だな。雨も降ってきやがった・・・」
星のない空から細い雨が降ってくるなか、犬飼は屋上へ出た。
団地の屋上は物干し場代わりに使われているらしく高い位置にロープが何本か張ってあった。もちろん、こんな時間で、誰もいない。
クラブの見える方向に進むと真向かいに大きな洋館の明かりが手に取るように見える。
「パーフェクトスポットだ。」
そうつぶやくと、犬飼はカメラバッグから小さな椅子を取り出しそこにバッグを置いた。
「こりゃ、好都合だな。雨も降ってきやがった・・・」
星のない空から細い雨が降ってくるなか、犬飼は屋上へ出た。
団地の屋上は物干し場代わりに使われているらしく高い位置にロープが何本か張ってあった。もちろん、こんな時間で、誰もいない。
クラブの見える方向に進むと真向かいに大きな洋館の明かりが手に取るように見える。
「パーフェクトスポットだ。」
そうつぶやくと、犬飼はカメラバッグから小さな椅子を取り出しそこにバッグを置いた。
次に2本のロープを張りなおし上に黒いビニールを広げて簡単な屋根を作る。
それを待っていたかのように、雨が少し強く振り出した。犬飼はバッグからカメラを取り出し望遠レンズをカメラのアタッチメントにはめ込む。
バシャッと音がしてロックされたのを確認してからカメラを雨から守る為に黒いタオルをかぶせて左目でファインダーを覗き込んだ。
「いいぞ。」
バッグを床に移動し、犬飼は椅子に腰を下ろしてひざを組んだ。
「タバコが吸えないのが辛いな・・・」
犬飼のカメラが倶楽部の建物の要所々々を舐めていく。建物の平面図は内ポケットにあるが見る必要はない。既に頭の中に叩き込んであるのだ。
「いいぞ。」
バッグを床に移動し、犬飼は椅子に腰を下ろしてひざを組んだ。
「タバコが吸えないのが辛いな・・・」
犬飼のカメラが倶楽部の建物の要所々々を舐めていく。建物の平面図は内ポケットにあるが見る必要はない。既に頭の中に叩き込んであるのだ。
犬飼はズームを引いて、監視カメラがあると思われる部分と『3110』が示した侵入経路を重点的にズームアップしてシャッターを切った。36枚はアッという間に使い切ってしまう。フィルムを交換しては撮り続けた。
「とりあえず今日は顔見せだ。数を撮って明日的を絞ればいい・・・」
外側が終わると今度は窓から見える範囲で人物の顔を流していった。
「ん? あれは・・・」
犬飼の手が、ぴたりと止まった。ファインダーの中の男の顔に、見覚えがある。癒着の問題で最近テレビや新聞を賑わしている代議士そっくりなのだ。
「おやおや 臨時国会の真っ最中だと言うのに お忙しいことだな。」
『パシャッ』
「モノはついでだ・・・」
人物の洗い出しは後で編集長に任せればいいだろうと、犬飼は黙々とシャッターを切り続けた。
雨は降ったり止んだりの状態だった。一通り、目に付くものを撮り終えた犬飼が腕時計を見るとまだ11時には間がある。
「急いで帰れば出版社ですぐに現像できるかな・・・」
犬飼は手際よくカメラをバッグに収め、痕跡を残さないように辺りを片付ける。団地の階段を下まで降りるとうまい具合に公衆電話が目に入ってきた。小銭を入れて、出版社に電話を入れる。電話には編集長が出た。
「今から帰ります。現像の方頼みますよ。」
それだけ口早に言って、犬飼は相手の返事も待たずに車に駆け込んだ。最後に洋館の周りをもう一度ゆっくりと一周する。明日のためのロケハンだ。それが終わると車は雨にまぎれて見えなくなった。
「とりあえず今日は顔見せだ。数を撮って明日的を絞ればいい・・・」
外側が終わると今度は窓から見える範囲で人物の顔を流していった。
「ん? あれは・・・」
犬飼の手が、ぴたりと止まった。ファインダーの中の男の顔に、見覚えがある。癒着の問題で最近テレビや新聞を賑わしている代議士そっくりなのだ。
「おやおや 臨時国会の真っ最中だと言うのに お忙しいことだな。」
『パシャッ』
「モノはついでだ・・・」
人物の洗い出しは後で編集長に任せればいいだろうと、犬飼は黙々とシャッターを切り続けた。
雨は降ったり止んだりの状態だった。一通り、目に付くものを撮り終えた犬飼が腕時計を見るとまだ11時には間がある。
「急いで帰れば出版社ですぐに現像できるかな・・・」
犬飼は手際よくカメラをバッグに収め、痕跡を残さないように辺りを片付ける。団地の階段を下まで降りるとうまい具合に公衆電話が目に入ってきた。小銭を入れて、出版社に電話を入れる。電話には編集長が出た。
「今から帰ります。現像の方頼みますよ。」
それだけ口早に言って、犬飼は相手の返事も待たずに車に駆け込んだ。最後に洋館の周りをもう一度ゆっくりと一周する。明日のためのロケハンだ。それが終わると車は雨にまぎれて見えなくなった。