Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー101

「でも、さっきは、防衛族の大物が一人残らずって言ったじゃないですか?」
犬飼が聞きとがめた。
「愛知の某重工会社が世間に隠れて連綿と独自の航空機の設計を続けてきたという。」
編集長は、犬飼の質問に答えず、急に話を移した。
「・・・ほお それは初耳ですね。」
編集長の話が核心に近づいていると信じて、犬飼は文句を言わずに耳を傾ける。
「そらそうだろう、そんな事がアメリカに・・・、いや、世界に知れたらとんでもない事になるのは判るだろう?」
「なるほどね、世界の脅威になるか・・・」
「いきなりそうなるとは限らんが、お人好しで気の弱い日本という看板は返上になる・・・。」
「そのうわさが本物ならアメリカが躍起になって潰しにかかるでしょうね。CIAが喜ぶネタだな。」
「あっはっは そうだな 奴らもマスコミと一緒だからな。」
編集長は声では笑っているが顔はまじめだ。
「愛知の会社が独自に開発を続けているのは、航空機だと言われている。」
「まさか、軍用機!?」
犬飼が前に乗り出した。編集長は何も言わずにただ頷いた。
「そんな大それた事が、本当に秘密裏になされていたのか・・・?」
犬飼はうなるように呟いた。
第二次世界大戦敗北後の極端な軍縮。憲法改定で十分な自衛ができなくなり、かつての敵国の庇護に甘んじている。大体日本の国防が世界では特殊な例なのだ。
『てめえで てめえを守れない奴は滅ぶしかない』
弱肉強食が世界のスタンダードだが、日本はあくまで世界の良い子でいようとしている。もちろん、守ってやる方は自分たちに有利なように何かと無理を通そうとする。しゃぶり尽くされるだろうことは容易にわかることだ。
今の時点では、まだはっきりした事は解らないなりにも、国産の軍用機が生産出来るというのは、他力本願の日本から自立した日本に生まれ変わる朗報のようにも思える。防衛族がそれに乗らないはずはない。

「そこで勝見議員が登場だ。彼は5年前にその秘密を握って防衛族をまとめようとした。」
「・・・・」
「しかし、秘密というのは、知る人間が増えれば増えるほど、もう秘密ではなくなっていくんだ。」
「アメリカが知ったら黙っちゃ居ないでしょうな。高官はCIAに発破をかける。選挙対策だ。」
「まぁ、表立ってどう動くかは知らないが、日本になんだかんだと圧力をかけるのは確かだ。そして、それが選挙に役立つ。」
「う~ん、条約違反を突付かれたら、日本は言い返せないでしょうね。」
「ああ。われらが弱腰な政治家どもはすぐに折れてしまうだろうな。」
編集長も同意した。
「しかし、勝見は、少しは骨のある男だった。」
「ほう?」
「勝見は、英語が達者でな。多分、外国語のセンスがあるんだろう。学もある。海外の要人と通訳無しで対等に会話が出来る数少ない政治家だ。」
犬飼もテレビのニュースでそういったシーンを見た事があり、頷いた。
「勝見は、強い日本を取り戻す事を望んでいた。自分の国は自力で守ると言うのがモットーだった。」
犬飼は怪訝な顔をして
「だった?」
「そうだ。ここが問題だ。いつごろだったかな・・・そう、多分、3年ほど前か。勝見は、突然防衛族の第一線を退いてしまったんだ。」
「へえ、どこかから圧力を掛けられたんですかね?」
犬飼が聞く。
「勝見は圧力に負ける男じゃない。」
編集長が犬飼をジロッと睨み付けて否定した。





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