Nicotto Town



料理勝負【2】勝負の後で

マリア先生の前に並んだ二つのチャーハン。

「まずは、こちらのチャーハンから…」
マリア先生は、レンゲでひとさじすくって、ショウアンが作ったチャーハンを口に運ぶ。
「美味しいけど…何かひと味足りないですぅ~」
何でだろう?と首をかしげながら、今度はノエルが作ったチャーハンを食べるマリア先生。
「!!、美味しいですぅ~!」
一口食べて目を輝かせたマリア先生は、ノエルのチャーハンをあっという間に平らげた。
「ごちそうさまでしたぁ~!」
パンッと手を合わせて満足そうにしているマリア先生の口のまわりには、チャーハンのご飯粒がついていた。
「ノエルさん?い、痛いですぅ~」「ほら、マリア。じっとして」
ノエルはマリア先生の口のまわりを拭いている。
一口しか食べてもらえなかったショウアンのチャーハン。残さず食べて空になったノエルのチャーハンの皿。
結果は一目瞭然。ノエルの勝ちだ。ショウアンはこの結果に打ちのめされ、愕然としていた。
「マリア!お腹いっぱいになったからって、ここで寝ないでよ!
…もう、しょうがないなぁ~。寝るんなら保健室で寝なさいよ~」
ノエルはマリア先生をおんぶして教室を出ていった。ミツコ先生は二人に付き添っていった。
静寂に包まれた教室。チームメイトの中華三人娘も去り、一人残されたショウアン。

『美味しいけど…何かひと味足りないですぅ~』
ノエルの料理にあって、俺の料理にはないもの…一体、何なんだ!?
分からない…!分からないよ…!教えてくれよ、ミツコ先生…!
自分の寮の部屋の隅ですっかり落ち込んでいるショウアン。
「ショウアン!お腹すいたヨ~!」ミカに声をかけられて、ショウアンはやっと我に帰る。
「…ああ、そうか。今日は俺が夕食当番だったな。チャーハンでいいか?」
ミカもメイリンもアンシーも気落ちしているショウアンに話しかけられなかった。

『ちょっ、何コレ!?味が濃すぎネ!くどすぎるアルヨ!』
『あたしの好きなチャーシューが入ってな~い!』
『私、蟹はちょっと…。蟹アレルギーなんです…』
『文句言うなら食うな!もう作ってやらんぞ!』
俺が食事当番の時は、アイツら文句ばっかり言いやがって…。

ショウアンは、チャーハンを3人分作って、彼女たちの前に出した。
「ショウアンは食べないアルカ?」ミカはそう言うのが精一杯だった。
「どうした?食べないのか?…冷めるぞ」ショウアンは首を横に振り、背を向けて体育座りモードに戻った。
「いただきます…」と三人の声。レンゲの音、食べる音が背中越しに聞こえる。
ああ、また文句言われるんだろうな…「文句の満漢全席や~」と自虐ネタまで思いつく。
「美味しい!美味しいアルヨ!私好みの味付けネ!」
「わぁっ!チャーシューが入ってる~!嬉しいなぁ~!」
「蟹、入れないでくれたんですね…」
ショウアンは自分でも気がつかないうちに、彼女たちの好みや体質に合わせて、チャーハンを作っていた。
「ごちそうさまでした!」三人のチャーハンの皿が空になっていた。
「お前たち…どうして?」ショウアンは面食らって呆然としている。
「私たちの好みやアンシーの蟹アレルギーのこと、覚えててくれたんだね!」と、メイリン。
「今日のチャーハンは何だか優しい味がしました。心がホッとするような…」と、アンシー。
「何より一番嬉しかったのは、今日のチャーハンにはショウアンの「真心」を感じたからネ!」と、ミカ。
彼女たちの言葉を聞いて、ショウアンは自分の料理に欠けていたものが何なのかやっと気づいた。
「ミカ、メイリン、アンシー…ありがとうな!」
ショウアンは三人を抱きしめた後、寮室から出ていった。赤面して呆ける中華三人娘。
「今、ショウアン、ありがとうって…」ミカがぽつりとつぶやいた。

ショウアンは教員寮のミツコ先生の部屋をノックする。
「夜分遅くにすまない」
「何か用?いくらお願いしたってあなたを卒業させるワケには…」
「ミツコ先生、夕飯はもう食べたのか?」
「え?これから食べるところだけど?」
「何か作ろうか?何が食べたい?」
「そうね…チャーハンを作ってくれる?」
「分かった」

ーつづくー




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