刻の流れー110
- カテゴリ:自作小説
- 2023/08/05 22:39:31
「本田さん・・・こちら、川崎、本田さん?」
幾度となく呼びかけているのに10分ほど前から無線が繋がらない。
山道に入って、途切れる事はあっても、全くつながらないと言うのは解せない。
「おい、鈴木。本田さんに繋がるか?」
川崎は隣を走る同僚に無線で聞いた。
「Come Honda, This is Suzuki ガッ」
「ガッ・・・・ ザザッ」
やはり空電の音ばかりで応答が無い。
鈴木が頭を横に振って見せた。
「谷間か・・・」
電波は直進するために山陰や谷間には届かないところも出てくる。川崎はスケルチを下げてみたが
「ザザザザザ・・」
最後の交信で、本田は内田 ひろみを発見、追跡に入ったと言っていた。
「まさか・・・」
不安が一瞬頭をよぎる。
「いや、本田さんに限って、ヘマはないはずだ・・・」
川崎は邪念を押し出すように頭を振った。
しかし、連絡が付かない以上、こちらだけで前の2台を始末する事も考えなければならない。
「多少荒っぽい事も許す」
川崎は本田の言葉を口の中でつぶやいた。
接触させて事故らせるのも手だが、かなりすいてきているとは言っても、全く対向車がないわけではない。
目撃者がいてはならないのだ。
ここは、奴らが焦ってコーナーでヘマらせるようプレッシャーをかけるのがベストだろう。
ただ、奴らのテクニックも相当だと言う事は、後ろをしばらく走ってわかっていた。
「どうしたものか・・・」
国道428号は夜間は車も少なくなるので2車線を使っての走行となる。
「鈴木 もっとプッシュしろ。俺は右に入る」
川崎がヘッドセットに向かって言った。
「おまえは目立つように囮に左へ入れ」
鈴木は左手の親指を立てて相棒に応え、ハンドルを左にきった。
懐に入ればコーナーのイン側からアウト側に膨らんで相手を道から押し出せる。
ガードレールの向こうは谷底だ。
川崎はそれを狙っているのだ。
鈴木が左側に入ると案の定、ターゲットのうち後ろ側を走っていた一台が気をとられIN側をあけた。
背格好から、こっちは犬飼に同行していた若い男のようだ。ライトを消した川崎はバイクの鼻先をIN側に無理やり押し込んだ。
「若造を先にやるぞ」
川崎は鈴木に声を掛けてコーナーでわざとアキラのバイクの方へ膨れていった。
鈴木は巻き込まれないように軸線を外して川崎の真後ろを外す。コーナーが迫ってきた。
じりじりとアキラのバイクが外側、川崎のバイクが内側にきれいに二台並んだようになる。
「今だ!」
鈴木が興奮気味に叫んだ。カニの目のようになっているのが不気味だ。
『ガ~ッ』
川崎のバイクがアキラのバイクを足で押し出そうと迫ってきた。
「甘いで。それくらいの奴やったら東京にゴロゴロおるわ」
川崎の踵がバイクにふれる寸前にアキラはコーナーをものともせずに加速に移った。
『クオ~~~~~ン~~~』
するとその様子をバックミラーで見ていた要のバイクがスピードを押さえ、アキラとの絶妙のタイミングでスルスルと川崎のイン側に下がってきた。要は川崎のバイクに横付けする
「押し出すんなら、こうやるんだな」
バイクを起こしながら思いっきり足を蹴りだした。
アキラに気を取られていた川崎は横から完全に不意打ちを喰らった。
川崎のバイクがバランスを崩し路肩の電信柱に引っかかるととんでもない方向へと飛んでいく。
「One down, One more to go」
アキラがちらりと振り返って言った。
それを見た鈴木が怒りを前面に出し、再びアキラに突っかかってきた。
小部トンネルを抜けて小部峠を上りきると小部交差点で、右折すると六甲山、真っ直ぐ下ると有馬道という分岐点だ。
要達は道をどっちにするか迷った振りをしてスピードを少し落としぎみにして互いに手で合図を送りあう。
その一瞬を待っていたかように鈴木は全速力で二人の横をスルスルとすり抜けて前に出ると交差点でバイクをスライドさせて有馬への道を塞ぐ形に止まった。
それを見た瞬間要達は口元が綻んだ。
「やり~ これで計画通りや」
あまりあっけなく引っかかった追っ手にアキラは雄たけびを上げた。
「まだ油断するな ガッ」
『ギャギャギャッ』
前輪がロックするかと思うほどのブレーキング、後輪を滑らせ90度のターン。
車体が傾き、ギシギシッとショックが撓む音がする。
バイクの後輪がスライドして向きが六甲山へと変ったところで
『カッガッコッオオオ~ンオンオ~~ン フオ~~~ン』
ほぼ停止状態からフルスロットルで加速する。
六甲への夜道は街灯もまばらで対向車も少ないのだ。
「な、なにぃ?」
バイクを倒しスライドして道を塞いでいた鈴木は、肩透かしを食らった格好だ。あわてて、カシャカシャ、チェンジを落とす。
『パァアアアアアア~~~~ンパァ~~ン、』
鈴木もほとんど停止状態からフル加速をする。しかし、無理な体勢からでスタートが遅れ、車間はかなり広がってしまった。
週末はお仕事なので^^;私の分も週末を楽しんでね~~~
しーちゃんもお疲れ様です(*^-^*)