Nicotto Town


しだれ桜❧


時の流れー112

事故現場から、2キロほど走ったドッジの運転席では再び環が座ってハンドルを握っていた。
さっきのショックから、大分立ち直った様子だ。
「ザザッ・・もう 環らは表六甲に着いたかな」
「あはは、有馬でフロに入っとったりして・・・」
ノンビリしたアキラと要の会話に
「ブレイク」
桜が割り込む
「ザザザッ お、待ってたぞ。1台はやったぞ  ザッ」
要がすかさず言う。
「あら、さすがね。こっちも、環が、クラウンを片付けたわ。」
桜が、環を振り返ってにこっと笑いながら報告する。
「へぇ?環、やるやんか!」
アキラが心底感心して言った。
「ってことは、後は、あの元気のいい一台だけだって事か・・・」
要が後ろからじりじり、車間をつめてくる鈴木のバイクを顎でしゃくった。

その時突然アキラのバイクが失速した。
「?」
『ボ~~~~~~~っ』
こもった様な低い音がして、アキラのGPZ750Rがみるみる後ろに取り残されていく。
「くっ なんや? 」
音から判断するとエンジンが一発死んだようだ。
「あほ、なんでや、こんな時に!」
アッとゆう間に要のバイクが視界から消えていく。鈴木も赤いテールランプが目の前に迫って本能的にかわした。
「なんだ?」
鈴木も混乱した。2手に分かれて、何かたくらんでいるのかと、一瞬後ろを気にしたが、
「いや、今のは確か、若い方の・・・」
本命は、犬飼の方だ。若造にかまっている暇はない。

「どうしたの?」
「アキラが脱落した。」
桜の何度目かの呼びかけに、やっと要から返事が返ってきた。
「ええ?」
「アキラ、大丈夫なの?」
環と桜が同時にわめく。
「・・・俺は、大丈夫や 」
アキラの声が無線で戻ってきた。
「エンジンが一発死によった」
コンロッドが折れたらエンジンを突き破って即ぶっ飛んでしまうがそうではないらしい。
ピストンリングか?プラグだけならいいが・・・
「ザリザリ・・・奴は追い抜いていったで」
アキラはクラッチを切って惰性でGPZ750Rを路肩によせる。サイドステップを立ててバイクを止めるとキルスイッチを押してエンジンを切った。
「すまん、後一台、3人で、なんとかしてくれ」
アキラが残念そうに言った。
単なるエンジントラブルでの脱落と知って、心配で青くなっていた桜の頬に、血の気が戻った。
「もう・・・ 無事でよかった・・・じゃあ、その1台は私に任せていいわよ」
「ザッ・・あっはっは そりゃ心強いやん・・・ザッ」
アキラの声のすぐ後に、要が現在位置を送ってきた。
「ザザッ あと2分もしたら丁字路手前ですれ違う  ザッ 奴は俺のすぐ後ろだ ガッ」
「了解、桜オーバー」
桜は無線を置くと
「丁字路を通過の次のコーナーのインを押さえてくれる?」
環がそれに頷くのを見て、
「じゃあ、私は、荷台に移るわね」
と、さっさと窓から荷台へ出て行ってしまった。
環が車寄せに止める暇もない。
「おいおい・・・」
興津お墨付きの桜には朝飯前の芸当だ。
環がコーナーでできる限りスムーズにアウトインアウトする間に桜は手早くフックにカラビナをセットした。
荷台の片隅にセットしてあったスコップを取り外し手に取るとぎゅっと握り締める。
「・・・丁字路通過・・・もうすぐだ・・・」
風の音に混じって環が運転席から怒鳴るのが聞こえた。
「OK」
桜はスコップで荷台をたんたんと叩いて、それに応える。
環もクラクションを短く一回鳴らした。
桜は直線走行の間に荷台の鳥居の左側に陣取って体をロープを使って腰で固定する。
「利き腕じゃないけど だいじょうぶよね」
こんなときに桜は笑っている。
「丁字路を通過した。もうすぐ来るぞ、間違うな・・」
環がまた怒鳴る。
「まかして」
大声で桜が答えたが環に届いたかどうか判らない。
『コ~~~ン フオ~~ン パ~~ン』
2台のバイクの音が風邪に交じって聞こえてきた。
「もうすぐだ・・・」
桜はスコップを構えた。
『コ~~~ン』
聞き覚えのある CB750のエンジン音だ。その後から2ストの音も混じる。ライトが見えるとまた環がクラクションを短く鳴らした。
『ライトを確認した』
桜はスコップで床を叩いて、それに応答した。
『オーケー クラクションは聞こえた』
もう二人の間の感度は明瞭だ。

その時、爆音と共にCB750がドッジの横を擦り抜けていった。その後を数秒遅れでもう一台が坂道を猛スピードで降りてコーナーを曲がってくる。
『パーーーーーーー』
環がヘッドライトをハイビームにしてクラクションを鳴らしっぱなしにする。
鈴木はコーナーの向こうに見え隠れするライトで車が上って来るのには気が付いていたが、一般車がそんなに速く来るとは思わない。
手前でかわせるだろうと予想していただけに、コーナーへ突っ込んだとたんそのIN側を塞いでこちらに迫って来るドッジに息を呑んだ。
「ばかやろー」
怒鳴る間もなくピックアップを正面衝突寸前でかわして左に逃れようとする。
その瞬間、荷台から桜の振り下ろしたスコップが桜の手を離れて飛んできた。
『ガッ』
水平に飛んできたスコップが鈴木の胸板を直撃した。
一瞬、鈴木の体が宙に浮いてバイクだけが滑って火花を散らす。
「きゃ~ 当たっちゃった・・・・」
桜がぺろっと舌を出した。





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