Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー120

「いくつか、聞いていいか?」
「お答えできることでしたら。」
「ひろみは?」
秘書の女は、心持、気遣う顔つきになって、
「内田様は、お元気でいらっしゃいます。」
と、答えた。
「そうか・・・」
犬飼が頷くと、女は目を細めた。
「田中の執務室は、4階にございます。お支払いの件をお忘れなく。」
「ああ、絵と引き換えに、ひろみは無傷で返してくれるという事だな?」
「お約束いたします。」
なぜか犬飼は、女の言葉を信じられると思うのだ。
「そうか・・・」
と答えておいて、
「もう一つ・・・」
と、つづける。
『3110』は・・・斎藤 豊と言う男か?」
女は一瞬表情を固くした。
「・・・だとしたら、どうなのでしょう?」
「斎藤の目的は、なんだ?」
「さあ・・・」
「調べた所によると、情報室と言うのが、倶楽部のブレインのようだな?」
「さようでございますね。」
女はすなおに頷いた。
「で、斎藤はそこのナンバーツーだ」
「それは、倶楽部概要でお知らせしたとおりです。」
「ああ、そうだったな。そして最近そこのトップが死んで、実質室長に昇格した。」
「よく、お調べになりましたね」
「情報部室長と言うのは、かなりの権力の持てる地位なんだろう?」
「さあ、どうでしょう・・・」
犬飼は、構わず続けた。
「・・・斎藤の狙いは、支配人の地位か?」
黒幕が情報部ナンバーツーの斎藤であるとしたら、それはマスコミを使って、現支配人を失脚させ、自分が取って代わろうと言う算段というのが、編集長と犬飼の予想だ。
「それは・・・犬飼様にはご関係のないことですわ」
秘書は、視線をあらぬほうへ泳がせた。
「そうかな?俺が突っ走ったら、田中とか言う支配人を潰すだけでは終わらないぜ」
犬飼が不敵な笑みを浮かべる。それは、編集長も同様だ。ひろみを押さえられているとは言え、斎藤が望んでいると思われる結果は保証できない。
「あんたらが俺を選んだのは、人選ミスだったかもしれないって事だ」
女は、視線を犬飼に戻し、しばらくその鋭い目を見つめていたが、
「・・・あの方は、とても聡明なお方です。」
と、静かに言った。

「では、ご武運をお祈りしております。」
秘書は軽く会釈をして犬飼に背を向けた。そのまま廊下に出て、情報室の方へ歩いていく。入り口の男達と二言三言話していたと思うと、男達が一礼して、廊下のさらに奥に消えていった。女は扉を開けて中に入り、少ししてから、2、3人の男を連れてでてきた。
「でも、11時には戻ってきてくださいね。」
先の大男達と同じ方向へ向かう男達の背中に、秘書が声をかけた。
「了解です。」
男達が廊下の先に消えると、女は犬飼の潜んでいる方にちらりと視線を投げ、それから、自分も向こう側に歩いていった。

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2023/08/18 08:52
気に入りました
「秘書は、視線をあらぬほうへ泳がせた」って!
実は いつも声を出して 読んでいます
犬飼さんが不敵な笑みを浮かべたら 私も不敵な笑み?を浮かべます
頭の体操?です




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