猫は強い魔力を持つ。(黒いピアノと黒い猫2)
- カテゴリ:自作小説
- 2023/09/18 20:54:14
こんな暗い森を歩くのは初めてだった。
地面に時々見える灰色の木の根に足をとられないよう目をこらしながら歩く。
不意に細い灰色の何かが何本も地面から突き出ているのが見えた。
…女の人の指に見える。
猫は振り向いて「ギャオウ」と鳴いた。
誰かが言っていた。猫は強い魔力を持つと。
だから猫を従えていたなら、たいがいの魔物は近寄らないのだと。
それが本当でありますようにと祈りながら
僕は猫といっしょに暗い道を駆け抜けた。
家は明かりがついていた。父はまだ起きているのだろうか。
玄関の鍵も開いていた。
僕は叱られるのを覚悟で中に入る。
父は床に倒れていた。
近くでは椅子が倒れていた。テーブルにはお酒の瓶。
父はよだれを垂らしながら軽い鼾をかいている。
僕は少しほっとして、父を起こさないように戸棚からビスケットを
出した。猫もビスケットを食べるだろうか?
ふと見ると、さっきまで僕の傍にいた猫の姿は消えていた。
自分の部屋でビスケットを食べて僕はすぐ明かりを消してベッドにもぐりこんだ。
枕に顔をのせると父に殴られた左の頬とこめかみが痛む。
痛まないほうを下にするよう寝返りを打つと部屋のドアが開く音がした。
父だ。明かりもつけずにまっすぐに僕のベッドのそばに来て、僕を見下ろしている。眠ったふりをしていることに気付かれないよう僕はなるべくゆっくりと息をする。
父が僕の頭の上に手を伸ばしたのがわかった。
また殴るつもりだろうか?
父のため息が聞こえた。
そして、ゆっくりと部屋を出ていった。
父は人間じゃないのだそうだ。
学校でジルがとりまきと話していた。
「今度の選挙で**党が当選したら、ダヤン人を殺しても罪にならなくなるって父さんが言ってた。だからさ・・・」ジルが僕のほうを見てにやにやしている。
ダヤン人は人間じゃないから殺してもよくなる?
父はダヤン人だ。
では僕も人間じゃない?
母はダヤン人じゃなかった。
母が生きていたら「そんなことはないわ」って言ってくれただろうか?
どこかでかすかに猫の鳴き声が聞こえた。
続
明日はメンテなのでキリのいいところまでは残しておきたかったんよ。
ヒトラーが現れるより何年も前に。