黒いピアノと黒い猫 11
- カテゴリ:自作小説
- 2023/09/28 19:32:57
訓練された犬は獲物を一撃で仕留めると聞いたことがある。
相手が人間であれば、その腕の骨を鋭い牙で砕くとも。
体の震えが止まらない。
父は僕の恐怖を感じて助けにきてくれるだろうか。
「俺は無防備だ。同志ルービン、お前が守ってくれ」
どうしよう。
父と二人で隠れられないか? この狭い小屋で?無理だ。
ガラクタをどけても物音で相手に居場所を確信させるだけだ。
雨粒が屋根を勢いよく叩く音がする。
誰かの叫び声のような風の音も。
嵐になる。
雷鳴が轟く。
突然、「…奪え!…支配しろ!」という声が鳴り響いた。
いや、声じゃない。僕の頭の中で何かが僕に命令している。
その瞬間、世界が暗転した。
雨の中、オレは全力で駆けていた。獲物を狩るために。
4本の脚で疾駆することは何と高揚することか!
教えられたニンゲンの匂いは徐々に強くなっている。もうすぐだ!
…しかし、何かが変だ。
頭の中で声が響く。
「愚かな獣よ お前の本当の獲物はあそこだ!」
「お前を酷使し、痛めつけたモノに復讐するがいい!」
「お前の主人はお前自身だ!」
そうだ、オレはオレ自身のために獲物を狩っていいのだ!
黒いシェパードは、身を翻し後ろについていた警官の腕に噛みついた!
犬と人間が雨の中泥だらけになりながら、死に物狂いで闘っている様を
僕は少し上から見世物を見るように眺めていた。
犬に命令したのは僕なのか。
それとも僕の中にいる何者かだろうか。
仲間の警官が二人、シェパードと共に駆け付けた。
腕に噛みついて離さないでいるシェパードを撃とうとするが、仲間に当たってしまうのを恐れて撃てないでいる。
腕を咬まれた警官は、なんとか左腕で握りしめたナイフで犬の頸部を切り裂いた。
犬は小さく悲鳴をあげて絶命した。
可哀そうな犬だ。
僕は他の犬たちに「殺されたくなければ自由になっていいのだ」と、心で語りかけた。
犬たちは逃げた。
豪雨の中、警官たちも僕らを追うどころではなくなったのだろう。
大怪我をした仲間とともに引き返していった。
僕は小屋の中にいる父に意識を集中した。
父は人間の姿で銃を構えながら、小屋の窓から警官たちの様子を目で追っていた。
「お父さん」
父は驚いてふりむく。
「…もう大丈夫だよ、お父さん 僕は…」
父は何も言わず、僕を強く抱きしめた。
続
スピリットの状態で動物たちを支配し操る能力を持ちます。