黒いピアノと黒い猫 12
- カテゴリ:自作小説
- 2023/09/29 19:58:42
父は泣いていた。
「お前の魂が…憑代も持たず、彷徨い出て、もう…戻らないのではと思った。」
「そんな風に魂が戻らなくなり、逝ってしまうのかと…!」
父の涙が僕の肩を濡らす。
「お前まで逝ってしまったら、俺は…」
僕は母のことやエゼルのことを思い出した。
もしも僕がいなくなったら父は誰にも悲しみを吐き出せない。
そして、父がいなくなったら僕はこんなふうに泣くこともできなくなってしまうと思う。
ただ、心が重い鉛のように沈んでいくだけ。
いつまでも底にたどり着けない深い深い穴の中に。
だから、誰かと一緒に泣けることは幸せなんだ。
嵐がおさまるのを待って僕たちは人の目を避けながら、
何日もかけて父の叔父のアロンが住む村を目指した。
アロンは山奥でほぼ自給自足の生活をしているそうだ。
野宿しながら辿り着いた、アロンの家は 家というより物置小屋のようだったけれど暖炉の火が心地良かった。鶏や山羊が家の周りで鳴いていた。
銀色の髪と長い髭のアロンは自分の年は数えるのを止めたと言って笑った。
僕たちは、これまでの出来事を時に言葉に詰まりながらアロンに話した。
アロンはじっと静かに聞いていた。
そして、僕たちに驚くべきニュースを語ってくれた。
「お前たちがここに辿り着く少し前だ。同盟国の飛行機が嵐で操縦できなくなり
この国に不時着した。その不時着した場所は偶然だが我らダヤン人の収容施設のすぐそばだった。そして、そこが保護施設とは名ばかりのダヤン人虐殺施設だったことが明るみに出た。酷い生体実験も行われていたらしい。これまでも、そういう噂はあったが証明されたわけだ。それで周辺の国も動きだした。間もなく戦争は終わって、ダヤン人への迫害も終わるだろう。」
「本当に!?」
「確かだよ、あちこち飛び回って情報を集めたんだ」
アロンは実際に国境などお構いなく飛べるのだ。
「ルービン、ダヤン人に伝わる聖獣の話を知っているかい?」
僕は首を振った。
「はるか昔、まだ獣と人間の関係がずっと緊密だった時代のことだ。
全ての動物をを統べる聖なる獣がいた。その聖獣は永遠の命を持ち
あらゆる動物と心で会話ができた。
瞬きする間に千里の道を駆けることもできたという。」
「聖獣は大地の真の王だ。人間が信じる自分たちの部族だけの卑小な神ではなく
この世界に生きる全てのものの神なのだ」
「聖獣は他の動物全てを支配する能力がある。どんなに強い獣も狡猾な人間も聖獣の命令には逆らえない。」
「聖獣が永遠の命を持つなら…今も生きているの?」
「…大地と海が苦しむときにダヤン人の中から聖獣となる者が現れる」
「…伝説だよ。ダヤン人以外はその存在を魔獣と呼んでいるがね」
暖炉の炎を見つめながら、僕はずっと昔からそれを知っていたような気がした。
僕はきっと永い時をこれからも生きるのだろう。
天使よりも自由で悪魔よりも孤独に。
終
聖獣から名前をもらった父、実は深く考えていなかったんですが(;^ω^)
なんらかのレベルアップしてそうですね。
少年が巨大な力を手に入れて苦悩するっていうテーマが好きだったりします。
永遠に生きることと共に恐ろしいほどの孤独ですよね。
レベルアップしたお父さんが人間としてのルービンをサポートするような関係になったら
いいなあ。
後日談は、お気楽なエピソードですw
聖獣≒大地の真の王に、お父さんは名前をもらった形になるのかな。
この章を読むと尚更、同志では無くて父親の立場で居て欲しかった
と思うのだけど、難しいでしょうね。
明るみに出た生体実験、周囲の国からの制裁と良い方向に向かっていきそう
なのは幸いですね。そして、ルービン君はきっとダヤン人の迫害を越えて
生き続ける者になるのでしょう。
切ないけれど…自分の生き方を決めるまでには、心も一緒に育っていって
ほしいなぁ。
ともあれ、本編完結おめでとうございます!
後日談も、楽しみに読ませて頂きますね^^
絵よりも人間性出るかも。