Nicotto Town



自作小説倶楽部9月投稿

『気の合う友達』


「当たっちゃった」
と彼女がチケットをひらひらさせると集まった友達たちは口々に「さっすが、ユキ」とか、「うらやましい」とか羨望と賞賛の声を上げた。
恒例の女子会だが大抵は自慢話会になる。その中でひときわ目立っているのが彼女だ。
彼女の顔には満面の笑みが浮かんでいる。つい先日までストーカーへの恐怖でパニックを起こしていた。切り刻まれた手紙、夜道で感じる視線。警察に相談しても反応は芳しくなく今も真相は明らかになっていない。そして深夜に涙声で電話してきて仕事優先の彼氏への不満までぶちまけていたというのに。
今は得意げに彼女は彼氏との海外旅行の計画を話し始める。私は薄いカクテルをなめながらそれに耳をそばだてた。当然面白くない。私の胸の中で怒りの炎がくすぶっている。しかし逃げたくはない。連絡を絶って赤の他人になったとしても、この女は思い出の中で私のことを「可哀想なモブ」扱いするのだろう。許せない。
3年前のみんなで行った初詣で大凶を私の手から奪い取ってみんなにさらしたことを思い出す。「大凶取るのも難しいわよ」なんて何のフォローにもなっていない。
ストーカーのことを相談して来た時の彼女の震える声、夜道で振り替えた時の恐怖に歪んだ顔、そして小さな悲鳴。それらを思い出して少し心が軽くなる。もっと軽くなるにはどうすればいいだろう。旅行日程を心にメモしながら考えた。

「ざぁ~んねん。やっぱりサチがストーカーだったんだね」
あたしの顔を見た女は口をあんぐり開けた顔のまま固まってしまった。性格悪くて悪知恵が働く癖にすごくバカッぽい。
「どうしてって、顔しているわね。バレないとでも思った? あたしがプライベートのこと、新しいマンションや彼氏とかを話したのは女子会だけだからね。職場では話さないよ。毎回必ず出席のアンタが一番の容疑者だったわよ。でも尻尾を出さないから罠を張ったのよ。旅行は今日じゃなくて明日出発よ」
女は一瞬、悪事がバレた絶望で崩れ落ちそうに見えたが、足を踏ん張ると、あたしを睨み返してきた。
「私じゃないわ。この前の会で鍵を拾ったのよ。それが以前の女子会で見せてくれたユキの鍵に似ていたから確かめようと思ってマンションに来たのよ」
こういうのって厚顔無恥っていうのかしら。あたしのマンションの合鍵だと思うなら、あたしに連絡すればいいし、今の黒っぽい格好だって泥棒のための変装だ。そして不法侵入真っ最中。しかし、それを主張しても海外旅行を楽しんでいるところに水を差したくない。とか。服装は最近の趣味だとか反論するだろう。
残念ながら、この女の執念深さをあたしはとてもよく知っている。
少し残念に思う。女には才能があった。監視カメラをかいくぐってマンションの部屋に侵入している。あたしが何か月も調べてやっとわかったことをこの女は簡単にやってしまった。でも、知恵比べはあたしの勝ちだ。
女子会で話したことは最初からすこーしだけ脚色してた。
このマンションの部屋は会社の上司から掃除を任されたものであたしのものじゃない。3日ほどしたら本当の持ち主が帰って来て女の死体を発見するだろう。あたしはその頃は彼氏と青い海で泳いでいるだろう。
軍手をはめた手に決意を込めてロープを握る。
ごめんね。消えて欲しいって思っているのはお互いだったね。





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