アスーラとアズラーイル 3
- カテゴリ:自作小説
- 2023/11/13 21:22:00
わたしは人間世界に遊びに行くために、人間のアヴァターラ(化身)を作った。
わたしの真の姿を見た人間たちは、驚いて逃げていくばかりで話もできなかったから。
「人間は野蛮で龍族よりずっと知能が低い。そして、瞬く間に老いて寿命を迎えてしまう。だから、仲良くなろうなんて思わないほうがいい。あなたは女王になるのだから、龍族のことだけを考えなさい」と世話係のシーダはよく言っていた。
「わたしは自分の目で確かめたいの。同じ星に住むことになったのだから、お互いに相手のことをよく知らなくては」
結局、シーダはアヴァターラになって人間界に行くことをしぶしぶ了承してくれた。
わたしには気になる人間の少年がいた。
少し前のこと。
森で巣から落ちてしまった雛鳥を少年は大事そうに手のひらにのせて傷ついた羽を優しくなでていた。
でも、雛鳥は何度か羽ばたこうとしたもののぴくりとも動かなくなってしまった。
少年は体を震わせながら、小さな声で泣いていた。
自分と違う種族の死をあんなにも悼み悲しむなんて。
やはり人間は野蛮な種ではない。
華奢だった少年は、わたしが人間界に降りる度にどんどんたくましく成長していった。
ある日、大人になった彼は騾馬と共に乾燥した大地を一人で旅していた。身を隠す場所もない砂漠でわたしは彼の前に姿を現した。人間のアヴァターラで。
彼は一瞬幻を観るかのように遠い目をして、わたしを見つめた。
「ずっと、あなたを見ていたの。あなたが子供の頃から。わたしの名はアスーラ。」
「…子供の頃の夢だと思っていた。今でも夢を見ているのかな。僕はアズラーイル。」
「夢じゃないわ。ずっと、こんな風にあなたと話してみたかったの。一人でどこに行くの?この先には獲物になるような動物はいないわ」
「…僕は狩りをするのが苦手なんだ。それで、獲物ではなくて塩を取りに行くことにしたんだ」
「塩の泉ね。ずいぶん遠いわ、あなたにとっては。」
「片道4日の道のりだよ。途中水を補給できるところを通るから。君もいっしょに来てくれる?」
「わたしなら、瞬く間に行けるわ。あなたが目を閉じていてくれたなら、一緒に連れて行ってあげる。もうじき日が暮れる。星が煌めく頃には着くでしょう。」
「…これは、やっぱり夢だね。いいよ、少し眠ることにするよ。」
わたしは人間のアヴァターラでなく真の姿となって空を飛んだ。小さく愛しいアズラーイルを大切に守りながら。
キラキラと光る塩の泉のほとりで彼は目覚めた。
わたしはアヴァターラの姿から真の姿に変わってみせた。
彼はわたしの真の姿を見て驚きはしたけれど、恐れることはなかった。
塩がたくさん取れたことを彼は喜び、彼が喜ぶとわたしも嬉しくなった。
アズラーイルは往復8日かかる道のりを4日で塩を取って戻ってきたので
「魔法を使ったのか」と村人に驚かれた。
本当は一日で往復することも出来たのだ。
わたし達は楽しく歌い、話し、お互いに相手が自分の一部のように思えるようになった。
わたしはアズラーイルとずっと旅していたかった。
わたしが「うたた寝」する時間は、人間が老いて死を迎えるに充分な時間だとは知らなかった。
続
すごく興味深くて、著者とヨウムのアレックスの30年にわたる軌跡と成し遂げた奇跡に感動します。
下書きの上では1/5くらいですww
最期の一文とかちょっとフリーレンも入ってる感じで、続き楽しみ~(*^_^*)
頭の中は「パフ」のメロディが鳴ってます。
次回以後に時系列がすっきりします。
前回までの「僕」はこのアズラーイルの子孫なので。