Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


柔くしなやかな月の下で

第一章

誰にでもあるのだろうか、「自分の死」や「他人の死」を願ったことが。
少なからず、私には幾度となくそう願ったことがある。
私の人生で、弱い自分を見せられた人は今迄に現れてはいない。
「強くいないといけない」人生と言うのも疲れるものだ、と私は思う。
私の強さは何よりも「笑う事」だった。
今迄涙を人前で晒したことは、一度だってない私の人生は幸せなのだろうか。
仕事帰りに考える事ではない事は私が一番分かって居るのだが、
ここ最近、「強くいる事」=「笑う事」に疲れてきてしまったからだろう。
家へと付く寸前にある喫煙所で煙草を吸う事にした。
時間はとっくに22時を過ぎていた。
喫煙所には数人の男性しかいない。
そんな中で私は一人、隅っこの方で煙草ケースを取り出し、一本点ける事にした。
数人しかいない男性もほぼスーツ姿の人達であった為、
私のパンツスタイルのスーツ姿もその場に溶け込む様に喫煙所に居る事が出来た。
壁に寄り掛かり、煙草を吸い手持ちの携帯灰皿へと灰を落としながら、周りを観察する私が居た。
此処にいる人達も私と同様仕事帰りなのだろう。
ぐったりとしている人達ばかりだ。
私もここに居る人達にとっては同様に見えている事だろう。
正直、今日は忙しかったからか、私自身疲れている様にも感じていた。
此の空間にいる人達の中でどれだけの人が家族の元へと帰っていくのだろう。
そんな事を考えて、私には関係のない事か、と自身で納得する。
私には私の帰りを待ち侘びている人等いないのだから。
退屈な毎日を過ごすのも慣れたものだ。
咥え煙草をしながらボーっとしていた時に、スーツ姿ではない男性に「かっこいいですね」
そんな言葉を掛けられ、私は咄嗟に煙草を手に持ち替え「そんな事ないですよ」と
笑いながら返事を返していた。
その男性は厭らしさのない、青年の様に思えた。
私がボーっとしている間にこの空間に入って来たらしい青年は、
黒が好きなのか、全身真っ黒の洋服に身を包んでいた。
「少し、お話しませんか?」そう彼は私に言い、私は「少しなら…」と彼との会話を
続ける事にしたのだ。
「いきなりすみません…俺、あ、いや僕、アキって言います」
「アキさん?名前がアキさん?なのですか?」
私達は他愛もない会話をしていた。
「あ、いや苗字の方です…それと、僕よりきっと年上のお姉さんだと思うので、
気軽に話しちゃって下さい」と、彼はニコッと笑いかけ、私も笑い返す事になってしまった。
「あ、ありがとう…ございます、アキ君」
アキと名乗った彼は背負っていた大きなリュックから、紙とペンを取り出し、
「安芸 リム」と書いて私に見せてくれた。
私は不思議だった、リムは漢字ではないのだろうか?
そう思うよりも先に、安芸君は「僕、ハーフなんです」そう教えてくれた。
「なるほどね、それでリムは漢字じゃなかったのね」
そう私が伝えると、安芸君は色んな事を話してくれた。
今、職を探し中である事と、22歳である事、そして家出をしたらしい事。
「どうして家出なんて?親御さん、心配してるよ、きっと」
私は真っ当な事を彼へと言ってしまっている事に「あ、ごめん」と
人には色々な事情があるだろうしな、と反省迄してしまう事になった。
「色々あるよね、人生…」しんみりとしてしまった私を見て、
安芸君は笑いながら、「家出といっても、親には連絡してますよ、大丈夫です」
そんな事を言っていた。
安芸君がそんなに小綺麗なのは、何故だろう?そんな疑問が過り、
「お友達の家にでも泊まらせて貰っているの?」私は違和感を感じていた事を聞いていた。
「あ、はい…色んな友達の家を転々としながら…一応職探しもしてます…」
「今日はどうしたの?一人なの?」と次々と疑問が出てくる私自身にも驚いたのだが、
今日しか話せないだろう彼へと疑問を投げかけていた。
質問攻めになる前に私の名前を名乗らなくては、と頭の中にあった事を
安芸君はすんなりと、「お姉さんのお名前を聞いても良いですか?」
流石ハーフなだけはある、スマートに問いかけてくれた。
「ごめんね、名乗るのが遅くなっちゃったけど、私はカミカワ」そう名乗り、
私はスケジュール帳を取り出し、「上河」と書いて見せた。
「上河さん、こういう字を書くのですね」なんて本当に他愛もない時間が刻々と
過ぎて行こうとしていた。
私と安芸君だけになってしまっていた喫煙所に私は驚き、時計を見ると23時を廻ろうとしていた。
話し込んでいる間に分かった事は安芸君は今日、泊まる場所が無いらしい事だった。
「安芸君、もう時間も遅いけどこれからどうするの?」
私にはどうする事も出来ない事を私は尋ねてしまった。
「どっかの公園か、駅近くででも寝ます」とにこやかに答える。
「だ、大丈夫なの?…スリとか?」
小一時間程話し込んだ相手を前に情が湧かない訳がない。
「大丈夫ですよ、僕男なんで」なんて冗談を言う彼を放っては置けず、
私は「親御さんには連絡してるのよね?」そう念を押し、「はい」と言った彼に
「私の家近いけど、家に…来る?」
「え…?上河さんのお家にお邪魔しても…良いんですか?」
安芸君からは卑しささえも感じない。
「…私は一人暮らしだし、大丈夫だけど、安芸君がちゃんと親御さんに連絡してくれるなら」
「上河さん!神じゃないですか!」そんなふざけた事を言い笑わせてくれる純粋な青年だった。
「親に連絡します!」そう言って私の目の前で連絡を入れ始めた。
安芸君の親御さんは「泊まらせて貰う方に良く言っておくのよ、ありがとうございますって」
そう返事が来た事を私にしっかりと見せて、「あ、ありがとうございます」そう言って笑った。
「今日は本当にありがとうございます、お世話になります」と私へと感謝の言葉を
伝えてくれて、私と安芸君は「じゃあ、行こうか…」
何だか不思議な感覚で私達は私の家へと向かう事になった。

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2024/02/27 21:06
強さは 笑うこと
女性は特にそうかもしれないですね

知ってる人 つながってる人より
知らない人の方が 取り繕う必要がないから
ありのままの自分を出すことができそうな気もしてきました

賽は投げられましたね
これから先が楽しみです(*´꒳`*)



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