Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


柔くしなやかな月の下で

第二章

安芸君と歩き始めて4、5分だろうか。
私の住むマンションへと付く頃になっていた。
「ここだよ」と安芸君へと伝え、彼は「こんなに近かったんですか!?」と
驚きの声を上げていたが、私は安芸君の驚きに笑ってしまっていた。
「あの喫煙所から凄い近いでしょ?」と笑いながら安芸君へと問いかけると、
「…近過ぎますよ」とお互いに笑い合いながら、エレベーターの前で
変哲もない会話をしていた。
エレベーターが着く頃、安芸君は唐突に「今日は月が綺麗でしたね」
そんな事を言っていた。
私は気にも掛けていなかったから、「部屋に着いたら見てみるね」と伝え
二人して、エレベーターへと乗り込む。
私は3階へのボタンを押し、私の部屋へと向かうエレベーターが動き始めていた。
「あ、上河さん僕の事はリムとでも呼んで下さい、軽いノリで良いんで」
「あ…うん、リム君ね、分かった」
そんな会話をしている間にポンと3階へと着いたエレベーターの音が鳴った。
「私はすず、そう呼んで、リム君」エレベーターを降りながら彼へと伝えた。
「あっ、はい、すずさん」「今日は本当にお世話になります」
何処までも純粋で育ちの良さが感じられる彼に私は安堵した。
305号室、私の部屋。
私だけの部屋だった空間に彼を招き入れる。
「どうぞ、入って」…「お、お邪魔します…」彼は動揺しているかの様に
ゆっくりと私の部屋へと入って行った。
彼は私より7つ年下だった。
そんな事も伝えるべきだろうか、私には性欲がない事も…。
知らない女性の部屋へと入る事も怖いだろう、そう思い私は彼へとしっかりと
伝えようと思った。
「リム君、ちょっと良いかな」
「あっ、はい!」私が彼より7つ上な事と、性欲が無いから襲ったり等しない事を
彼へと何一つ隠さず、伝えた。
彼は背負ったリュック姿で正座までして私の話を聞いてくれた。
ほっとしたのか、少し緊張が解れた様にも見えた。
彼の安堵感を感じ取った私は、「荷物下ろして、ゆっくりしてて」そう伝えると
少し深呼吸をした様にも見えたが、彼はゆっくりとリュックを下ろして「ありがとうございます、すずさん」
そう返してくれていた。
私はほんの少し寒くなりつつあるこの季節には何を出せば良いだろうと考え、
「リム君、温かい飲み物が良い?」と尋ね、
彼は、「あ、お言葉に甘えて…白湯を頂けますか?」そう言った。
私は彼の言う様に白湯を入れ、差し出した。
「ありがとうございます」そう言い、彼は白湯を一気に飲み干した。
「今日はずっと外に居たの?」そう尋ねると、笑いながら「…はい」そう答えていた。
寒かっただろうに、ずっと大きなリュックを背負って歩きまわっていたのかな、なんて考え
お風呂に入って貰おうと思い、「今お風呂沸かしてあげるから温まっておいで?」
そんな事を伝えると、「あっ!僕お風呂掃除します!」少しだけ、私だけだった空間に
「会話」が生まれていた。
疲れているだろう彼へと「今日は私に甘えなさい」そんな事を伝え、
「あ…ハイ、すみません…ありがとうございます」
私がお風呂の準備をしている間、彼はリュックから一眼レフであろうカメラを持ち出し、
「すずさん、少しベランダに出て良いですか?」と問いかけられた。
お風呂掃除を終え、お湯を溜めている間に「良いよ?どうしたの?」
彼は「月の写真が撮りたくて…」何だか照れた様に小さな声で呟く彼が居た。
「私も一緒に月でも見ようかな」そんな会話をして一緒にベランダへと出る事になった。
私は煙草を持ち出し、彼はカメラを持ち出す。
私の部屋からも月を見る事が出来た。
ベランダへ出るのに、スリッパがない事に気付いた私はベランダの淵へと腰かけ、
彼はベランダへと出て月へとカメラを向け続けていた。
私は煙草に火を点け、月へと目を向ける。
ぼんやりとだが、柔らかく感じる光に私は「月って良いもんなんだね」
そんな事を彼へと投げかける。
写真を撮りながら彼は「月は毎日違う光を放つんですよね…それが僕は好きでして…」
また照れた様に言う彼に私はクスクスと笑い、「な、なんで笑うんですか!?」
「いや?リム君は月に恋をしているみたいに照れて言うから」と
私は彼へと伝えてみた。
彼は納得の行く月の写真が撮れた様で、私の隣へ腰かけて良いかと尋ねた。
「良いよ、座りな?」「ありがとうございます」
そう言って二人でベランダの淵へと座った。
「すずさん、あの…僕も煙草良いですか?」…「勿論」そう答えると
彼はパーカーのポケットから煙草を取り出し、吸い始めた。
「見て下さい!今日の月の光は優しいんです」そう言って先程撮っていた月の写真を見せてくれた。
とても美しく撮れていた写真に「うわぁ…綺麗だね…」そんな言葉が私の口から洩れていた。
彼の撮った写真に見惚れていた時にお風呂が沸いた音がした。
「リム君、お風呂沸いたから、入っておいで?」そう伝えて、私はメイクを落としに行った。
「先に貰っちゃってすみません…」「良いんだよ」そんな会話をしながら、
彼は着替えやらを準備し、お風呂へと向かった。
気を遣ってくれたのか、彼はあっという間にお風呂から上がっていた。
そう言えば彼は夕食を採って居ないのではないかと、
「リム君?夕食は済ませたの?」私は彼へと尋ねた。
「あ、今日はあまりお腹が空いていないので、大丈夫です」
私も同様に空腹感が無かった為に、「私もお風呂入って来るよ」そう伝え、
私はお風呂へと入る事にした。
お風呂に入る前に、私の部屋の間取りや電気関係は説明はしておいた。
「ここがトイレで…ここは私のメイクルーム」諸々。
「部屋で煙草吸ってても大丈夫だから」そう伝え、私はお風呂へと向かった。
いつも通りに30分程でお風呂から上がると、彼はリビングで寝てしまっていた。
小さな私のテーブルに「僕から話しかけておいて、性欲がないと聞いてほっとしてしまった
僕がいました。今日は本当にありがとうございます。すずさんと居ると何故かほっとします。
眠たくなってしまったので、置手紙で伝えておこうと思いました。
すずさんのお風呂を待てずに寝てしまう僕を許してください。おやすみなさい。」
そう、書かれた置手紙を読んで、「良いんだよ、ゆっくりおやすみね」と呟いた。
彼にブランケットを掛け、私はスキンケアをして眠る事にした。
明日になれば、彼は居なくなってしまうかもしれない。
寂しくも感じずには居られない夜になってしまったな、と思い眠りへと落ちて行った。




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