柔くしなやかな月の下で
- カテゴリ:自作小説
- 2024/03/04 23:43:49
第五章
私は、リム君お手製のサンドイッチを食べる為、屋上へと行く事にした。
屋上には疎らに人がいて、お昼を食べていた。
少し寒い時期だったが、今日は天気が良い。
花壇の縁に腰かけて、空を仰ぐ。
まだ、暖かいや、なんて思いバッグからサンドイッチを取り出す。
「いただきます」小さく呟いて、私は綺麗な黄色の花柄のハンカチを解き始めた。
ラップに包れ、綺麗に四等分されたサンドイッチの上に二つ折りになったメモが置かれていた。
そのメモを開くと「すずさん!お仕事お疲れ様です!」と書かれており、
メモは続く。読み進めていくと、「すずさんと居ると、とても落ち着きます。
なんだか、色んな事を話したいです。午後もお仕事頑張ってください!」と
リム君なりの言葉が連なっていた。
私は朝慌てていた為、「落ち着く」と言ってくれる彼へと疑問が浮かぶ。
そうだ、私リム君に「ここに居て」等と言わなかっただろうかと、思い出し
「私は、なんで引き留める様な事を…」と独り言で出てしまった後の言葉はきっと
「言ってしまったのだろう…」と続くであろう言葉は飲み込むことにした。
恥ずかしい言葉を言ってしまった、と後悔するには既に遅い時間に、
一人、開き直るしかないか…と諦め、朝食用に作ってくれた彼のサンドイッチに
手を合わせ、「いただきます」とラップからサンドイッチを一切れ取り出し、
口へと運ぶ。「…美味しいじゃん」私は空を仰ぎながらサンドイッチを食べ始めた。
人の優しさに触れるのはいつ振りだろうか…なんて思いながら
何故なのか涙が溢れそうになるのを我慢し、膝に置かれたサンドイッチへと目を落とす。
「ありがとうね」私の部屋で過ごしているであろう彼へと、言葉が洩れた。
ゆっくりとじっくりと味わう様に食べていたら、お昼休憩もあっという間に
時間が過ぎてしまっていた。
私は、屋上に喫煙所がある事を有難いと思い、「ご馳走様でした」と呟いた後、
ハンカチを綺麗に折りたたみ、バッグへと忍ばせ、煙草ケースを取り出し、
この場所にある喫煙所へと向かった。
私は常に溝口と行動している訳ではなかった。
喫煙所に一人で行く事もしばしばある。
特に「一人だから」等という事を考える事もなく。
なんとなく「一人を好む」と言った方が合っているのだろう。
それは精神疾患だと判断されてからかもしれない。
いや、学生時代からそうなのか…なんて今考える事じゃない事を考えながら、
煙草を取り出し、火を点けた。
喫煙所には人は居なく、私一人の空間だった。
周りを良く確認し、誰も近くに人が居ない事をしっかりと見渡してから、
私はしゃがみ込み、ふいに涙が流れてしまっていた。
きっとリム君の優しさに、だろう。
さっと涙を手で拭い、煙草へと集中する。
午後の仕事へと頭を切り替えつつ、呼吸を整えるかの様に煙草を吸う。
「明日は休みだ、頑張ろう」と自分を鼓舞する様に言い、
煙草を消し、軽く香水を纏い自分のデスクへと戻る為、屋上を後にした。
デスクへと戻ると、溝口が既に自分のデスクへと退屈そうに向かっていた。
「あ、上河!お疲れ」と私へと楽し気に話し掛けてきた。
「お疲れ様」と、私は笑顔で返し「さ、午後も頑張ろうね」と伝え
午後への仕事へと向き合う事にした。
リム君お料理上手 というか
なんとなく 生活力高そうなイメージです。
人が自分のためにしてくれることって嬉しいですよね。
主人公さんの生きる力になってくれそうな気がします。