Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


柔くしなやかな月の下で

第十章

私が精神を病んだ過去には幾人かの男性が居た。
その中で最も心に傷を付けられた相手は一人。
当時、私は彼と付き合っていた、筈だった。
何度も身体を重ね、「好きだよ」「愛してるよ」と言われ、その言葉達を信じていた。
突然、彼と連絡が取れなくなって数年後のある桜の咲き始めた春の夜。
彼から久しぶりに連絡が入っていたのだ。
「あの、すみません、どちら様ですか?」と。
私からしてみたら「恋人」だった筈の彼から「誰ですか?」と。
彼にとって私はただの「セフレ」だったのだろう、記憶にも残らない程の。
私は、仕事にも追われ、疲れていた上に「セフレ」だった事を悟り、
彼になにを言う訳でもなく、只悲しくなり彼の連絡先を全て消した。
それから、私は仕事に没頭するようになり、毎日の様に残業を頼まれてはヘトヘトになり
疲れている筈の身体に休ませる事をしなかったのだ。
眠たい筈の頭や身体は眠る事が出来なくなり、仕事でもミスが増えて行った。
眠れない身体で仕事へと行き、ミスを犯す私に罵声を浴びせられ、食事もまともに採れない日々。
精神を病むのに時間は掛からなかった。
精神科を訪れる頃には「鬱ですね」と診断され、薬を処方して貰っていた。
私は、当時勤めていた会社を辞める決心をせざるを得ない状況だった。
リム君が「女性に対しての恐怖」を抱いたかのように、私は「男性に対しての恐怖」を抱いていた。
いや、私は「人に対しての恐怖」かもしれない。
辞表を持って、会社へと行き仕事を辞めさせて欲しいと伝えたあの日。
上司から何故かと問われ、精神を病んだ事を伝えると、
「そんなくだらない病気になんかなったのか」と言われたのを覚えている。
そして、「そんな人材はうちの会社には要らない」とも。
それからの私は、外を歩くと「役立たず」「要らない存在」私が生きている事を否定されているかの様な言葉がどこかしらから幻聴等が聞こえる様になり、外に出る事もままならなくなった。
病院へと行くと、「統合失調症にもなっていますね」と薬は増えて行った。
そんな過去をリム君へと淡々と話している時に、ふと彼は私をふんわりと抱き締めてくれていた。
私は驚き、「どうしたの?リム君…?」と問いかけると
彼は「…だって、すずさん…泣いてる」と言われ、頬を触ると涙が流れていた私に驚いた。
人に涙を見せたのはいつ振りだろう…。
「大丈夫だよ、リム君」そう言ったが、彼は私を抱き締め続けてくれた。
「相当辛かったんですね…」私を抱き締めながら彼はそう言ってくれた。
「すずさん、いつも笑顔だから…気が付かなかったです…」とも。
抱き締め続けてくれる彼に、そして私の過去に寄り添ってくれている彼に私は
気が緩んだのか、涙が止まらなくなってしまい、数年振りに人の温かさに安心していた。
「リム君」だったからかもしれない。
私は止まらない涙を流しながら、「…もう少しだけ…抱き締めててくれない?」そう伝えた。
彼は「はい…分かりました…」そう言って、私の頭を撫でてくれた。
私は、彼を抱き締め返せずにいたが、彼はほっそりとした身体で私を包み込んでくれていた。
感情が段々と溢れ出てしまう…どうしよう…と私は焦ったが、
リム君は「…辛い時は泣いてください…」優しくも今の私には涙腺が崩壊する様な言葉だった。
私は、「あり…が…と」小さく呟く事が精一杯だった。
その後、私は案の定号泣してしまっていた。
泣きに泣いて疲れてしまった私はいつの間にか眠りに落ちていた。
気が付いて起きた時にはすっかり朝方の四時を廻っていた。
背後に温かさを感じた私は、振り向き後ろから抱き締めてくれたままリム君も寝てしまったのだな、と
「ありがとう、リム君」とそっと呟き、リム君の腕から離れようとした時
彼を起こしてしまったらしく、寝惚けていたのか「ん…すずさん?…何処にも行かないで…」と言われ
彼の頭を撫で、「…薬を飲んだら戻って来るよ」そう伝えると、安心したかの様に
すぅ…と眠りに落ちて行った彼を見届け、起こさない様に彼の腕から離れ、
私は薬を飲みにキッチンへと向かった。
コップへと水を入れ、薬を準備し一気に飲み干した。
メイクを落としていなかった事を思い出し、私は洗面台へと向かう。
私はメイクを落とし、お風呂は明日にでも入ろうと思い、スキンケアをする為に、
メイクルームへと向かった。
私の各部屋には灰皿や煙草が常にあった。
スキンケアをしながら、煙草へと手が伸びる。
「今日は久し振りに人前で泣いちゃったな…」としんみりしてしまったが、
明日は笑おう、そう頭を切り替え、一本丸々と吸ってしまっていた。
優しい香りの香水を軽く纏い、リビングへと戻り寝室へと向かい
掛け布団を持って、リム君の元へと戻って来た。
「何処にも行かないで…」そう言っていた彼は泣いている様にも見えた私は
彼の後ろへ周り、抱き締めるかのように腕を回し、掛布団に二人で包る様に眠りに落ちた。

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2024/04/06 20:02
こちらに失礼します
季節の変わり目
特に春は 身体も心も季節の変化についていけず
病みがちな季節と聞いています
私も風邪をひきました(´;ω;`)
紫音さんも 無理をしないのが一番
と言っても
無理をしないと 病んでる時は 生きることさえできなくて
いっそ
と思ったり思わなかったり

とにかく ご自分を愛してあげてくださいね

白湯 どうぞ
寒いので温まりますよ(*´꒳`*)
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2024/03/17 11:54
心が荒んでいる最中は何も考えたくないから
仕事などに没頭していたくなるのわかります。
主人公さんお辛かったでしょうね。

二人の辛さ苦しさを溶かすような眠り
どうか幸せになれますように。

紫音さんの描写にいつも時を忘れてのめり込んでしまいます。
いつもありがとうございます。



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