Nicotto Town


Re:一刻のつまらない日記&コラム


タイトに生きる

俺は今、春物の服を整理している。

思えば、「タイト」という言葉に振り回され続けてきた人生だった。

服屋で試着して

(ちょっと小さいかな……)

と感じた時

「これのLありますか?」

と聞くと

「Lの在庫ないんですよ」

と答えた店員さんは、決まってこの一言を付け加えてきます。

「でもお客さん、これはタイトに着るのが今年風ですから」

そのとき俺はこう思うのです。
(そうか、タイトに着るのが今年風なのか…)

ファッション上級者にのみ許された「タイト」という甘美な響き。
そんな「タイト」が今日もまた俺を誘惑する。

そしていつしか催眠術にかかったかのようにこう口にしているのです。

「この服…ください」と。

そして、数時間後、自宅の鏡の前で明らかにサイズの小さい服に体を締めつけられながら、もだえ苦しむ俺がいた。(10年前の春)

こうして俺は服を買いに行く時はいつしか、服を見るのではなく店員さんを見るようになっていました。

この店員さんの言っていることは真実なのか?
また嘘をついて俺に服を買わそうとしているのではないか?

そうした疑心暗鬼に囚われながらも、誠実な店員さんを探し求め、そして、ついに、俺は出会ったのだ。

仙台のお店で出会った店員さんは、いつも正しく導いてくれた。(以後、店員をTと称す)

「似合わない」時ははっきりと「似合わない」と言ってくれて、セールの日が近づくと、「あとちょっとでセールだからその日まで待った方がいい」と教えてくれました。

また、Tが勧めてくるものは、一見カッコイイと思えないものでも、着てみると予想以上にカッコ良く見えるものばかりで、いつしか俺とTはゴルフまでやる仲になっていた。

店員と客の関係を超えた絆が生まれるようになった瞬間です。

そんな、夏の足音が聞こえ始めたある日の出来事、この日も俺はTのお店で、勧められるままに服を試着していました。

Tは言う。

「いやあ、このシャツ、マァジカッコいいっすよね~」(Tの口調はこんな感じです)

カッコイイと言うならカッコイイに違いない、そう思いながら鏡に映る自分を見ていました。

ただ、そのとき、俺は思ったのです。

(ちょっとキツいな)

そして僕はTにたずねました。

「ちなみに、これLありますか?」

するとTは答えました。

「あ、L無いんすよ~」

しかし、そのあとTのセリフに俺は耳を疑いました。Tはこう言ったのです。

「でもこれマリン系なんで絶対タイトに着た方がいいっすよ~」

まさか…。タイトの再来なのか?

俺は…震える顔をTに向けました。

まさか…あんたも…。

しかし、数秒後、一瞬でもTを疑った自分の器の小ささを恥じました。

俺の目に映っていたのは、服と真剣に向き合っているTの凛々しい表情だったのです。
こうして、俺の不安は希望に変わりました。

ついに、待ち望んだこの日が、来たのだ。
俺がタイトに着こなす日が。

気づいた時には、俺は精一杯の笑顔をTに向けてこう言っていた。

「こ、これ下さい!」

それから俺は自宅に戻りTから勧めてもらったシャツを鏡の前で着てみたところ、あることに気づきました。

めっちゃワキ毛出てるんですよ。




そして、その服、今ここにあるんすよwww
コ•コ•にwww
めっちゃ懐かしいwww

それからと言うもの、服はUNIQLOかGUでしか買わなくなりました。




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