Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


柔くしなやかな月の下で

第二十三章

外に出ると割と人も多く、なんだか人の多さを感じた私は、彼の言っていた「美味しいパスタ屋」迄はタクシーで行く事にした。駅だと六駅分ほどの距離だ。
此処で人の多さを感じるとなると、電車は大変だろうと思いタクシーを使う事にした。
「ちょっと待ってね、タクシー呼ぶから」と声を掛け、「あ!はい!…なんだかすみません…」と罪悪感を感じたであろう彼に対し、「良いんだよ、大丈夫」と返事をし、セットした筈の髪をくしゃっと撫でた。「あぁ…折角セットしたのに」と笑う彼に私も笑ってしまい、手鏡を渡して「ごめん、髪の毛直してて」そう伝えた後にタクシー会社へと電話を掛けた。
髪を直し終えただろう彼に「十五分後くらいに来るって」と、伝えると手鏡を返すと共に私へと「了解です!」と楽しそうに笑う彼の笑顔があった。
「すずさん!今日朧月なんです!」とうっとりと月を見上げる彼を少し眺め、私も月へと目を向けた。
冷たい空気の中、ぼんやりと浮かぶ朧月はとても美しかった。
「綺麗だね」…「はい」そんな会話の中、あっという間に十五分は過ぎていた様でタクシーが来ていた。
「リム君、タクシー来たみたい、行こうか」…「あっ!はい!行きましょうか!」と私の手を握り、タクシーへと二人で乗り込む。行き先を伝えた彼は、「冷えましたね、すずさんの手冷たい」と私の手を温めてくれる様に握り続けていた。「ありがとう、リム君」と私は伝え、彼の手を握り返していた。
お店近く迄私の手を握っていた彼は、「少し歩きますが、コンビニ寄っても良いですか?」と尋ねた。
私は、温かくなって来た手に安心感を抱きながら、「大丈夫よ」と笑顔で応えると、「運転手さん、この辺で止めてくれますか?」と、声を掛けた。
会計を済ませ、タクシーを降りると、すぐ近くにコンビニはあり、「薬持ってるのにお水忘れちゃって」と少し恥ずかしそうに笑う彼に私は何だか愛おしくもあり、大切にしたい人だな、とふと思ってしまった。「私も煙草でも買おうかな」と彼へ伝え、二人してコンビニへと入った。
お互いに欲しい物を買った後、「さぁ、行きましょう!」と私へと手を伸ばす彼の手を握り、パスタ屋へと向かった。五、六分程歩いた時に、「あのお店です!」と彼は指を指した。
壁面がつるで彩られているお洒落な店に「素敵な雰囲気ね」と私はにこやかに返した。
「でしょ?」なんて笑いながら自慢気に言う彼は落ち着いている様子だった。私達が店へと入る前に一組の男女が入って行った。その男女を見た後に彼の呼吸が乱れ始め、「…すずさん、少し待って…」と脇道へと入って行く。蹲りながら、呼吸はどんどんと乱れて行く。「…大丈夫?どうしたの?」と私は背中を摩り「ゆっくり呼吸して」そう言う事しか出来なかった。「…はい…」彼は小さな前掛けのバッグから薬を取り出し、薬を飲んだ。「…ア、アキラさんでした…怖い…」そう言った彼の身体は震えていた。
さっきお店に入って行った女性だろうか、何処か見覚えのあるボブヘアーの軽く髪を巻いたかのような女性を私は思い出していた。蹲ったまま、呼吸を整えようとする彼を抱き締め、「大丈夫よ…今日はもう帰ろう」そう伝えると、彼は乱れた呼吸のまま「…すみません」と一言言った後、震える身体と呼吸を整える事に必死になっていた。私はこの街を知らなかった為に、彼へと今の居場所を心苦しくもなりながら尋ねタクシーを呼んだ。「リム君、タクシー十分後に来るらしいから、それ迄呼吸に集中してるんだよ?」頷く事しか出来ない彼を見た私は、心に痛みを感じる事しか出来なかった。
「大丈夫…大丈夫だからね」と伝え、背中をゆっくりと摩る事しか出来ない私に歯痒くなる思いを押し殺しながら、「ゆっくり呼吸して」と伝え続けた。
タクシーが来る十分がこんなに長いとは思った事のない感覚を覚え、「もうすぐタクシー来るから」と背中を摩り続けた。彼の呼吸は落ち着く事はなく、冷や汗迄出始めていた。
タクシーがやっと着いた頃、彼は精一杯の言葉で「…ほんとにすみません…」と一言私へと伝えた。「大丈夫よ…歩ける?」と、私は彼を支えながらタクシーへと乗り込んだ。
タクシーへと乗り込んだ私は、マンション近くの住所を伝え、彼の背中を摩りながらその場所から離れる事になった。彼の背中を摩りながら、ハンカチを渡し「汗拭いて」と彼へと伝える。
頷きながら、彼は私のハンカチを手に取り、汗を拭き始めていた。浅くなっていく呼吸が分る程に乱れた呼吸に、私は「大丈夫よ…帰ろう」と伝える事で彼に落ち着きを取り戻させるかの様に言い続けていた。
その夜出ていた何処か妖艶でもある朧月は姿を消していた。

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2024/06/16 14:48
お月様が尊い二人を見守ってくれているようですね
トラブルも二人なら乗り越えられる
そう願っています

お互いがお互いを思いやれる関係 いいなあ
大変な場面だけどちょっと嬉しくなりました

変かな 不謹慎だったらごめんなさい



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