Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


柔くしなやかな月の下で


最終章

彼が起きてきたのは、お昼前だった。「…ん」ぼんやりしている彼の髪を撫で、「起きた?」と彼へと静かな口調で聞く。「…すずさん?…俺…いつの間に…寝てました?」…「うん、おはようリム君」と彼を柔らかく抱き締めた。「あぁ…昨日、俺…」と昨夜の事を思い出してしまったのであろう、彼は私を強く抱き締め返していた。「怖かったね…大丈夫?」…ほんの少しの沈黙の後に「…俺、すずさんに情けない所ばっかり見せてますね…」そう言っていた。
「そんな事ないよ、大丈夫」…「私ね、仕事辞めようと思ってるんだ」…「えっ?どうしてですか?」…「少し、疲れちゃったからかな」そう言って彼へとキスをした。
同じ職場に溝口が居る事に嫌悪感や「死んでほしい」と抱く様になるであろう事や、彼のパニックを目の当たりにして、一人にしておけない事が理由だとは彼には言えなかった。きっとそれを伝える事で彼はまた一つ彼なりに悩んでしまうと思ったからだ。「在宅ワークでも探そうかな」…「そうなんですね…すずさん、頑張り屋さんだから」と私を労ってくれる言葉を掛けてくれた。「ありがとう」静かな静かな昼下がりのゆったりとした時間や会話だった。
それから、8年が経った今私は海の見えるマンションへと引っ越しをし、在宅ワークをこなす日々を過ごしている。一段落ついた私は「ふぅ、疲れた」と伸びをして、リビングへと向かった。そこには赤い色をしたアネモネが飾られていた。私はカメラを持ち出し、アネモネの写真を撮った。
少しばかり疲れを帯びた身体でベッドルームへと向かい、眠りに付いた。どの位眠っていたかは覚えていないのだが、「…すず」と声を掛けてくれた男性に起こされた。「今日もお疲れ様、一緒にご飯食べよう」…「ん…」と私は伸びをし、彼に抱き付きながら寝惚けたまま「お腹空いたぁ」…彼から香る花の香りに安心感さえ覚える日々だ。「今日は何作ってくれたの?」…「今日はね、パエリア」…「うわぁ、美味しそう」リビングへと出ると、「ママー起きたぁ」と娘の凛が私に抱き付いてくる。「今日も可愛いねー凛、おはよ」と彼女を優しく包み込んだ。きゃっきゃと騒いでいる凛を抱っこしながら、私は彼へと「凛のご飯は?」…「凛ね、今日保育園から帰って来たらお腹空いちゃったみたいだったから、先に食べさせたよ」…「そっかぁ、凛ごめんね?一緒に食べられなかったよぉ」…「んーんパパがね、ママはお仕事忙しくて、寝ちゃう事多いけど凛とご飯一緒に食べたいって思ってるんだよって言っててね、パパと一緒にママのお仕事応援してあげようねって約束したんだぁ」…「ありがとう」彼へと伝えるとにっこりと微笑んでいる彼が居た。
「さ、温かい内に食事にしようか」…「うん、そうだね」とテーブルへと二人して向かい合わせに腰掛けた。「今日は仕事どうだった?」…「楽しかったよ」そんな何気ない夫婦の会話の時間に、凛は眠りに付いてしまっていた。「あ、凛寝ちゃったね」…「ほんとだ、可愛い…」彼は彼女のお気に入りの毛布を掛け、彼女の部屋へと連れて行った。さて、洗い物でもするかなと私も腰を上げ、カチャカチャと片付け始めた所へ、彼はリビングへと戻って来た。
「起きる気配すらないや」と笑いながら、私の背後へと立ちながら私を抱き締めた。「すず?こっち向いて?」…「んー?」なんて言いながら、お互いに求める様にキスを交わした。
「お風呂一緒に入ろ?」と彼からの誘いに「一服したら入ろうか」といつもの様に答えていた。
片付けも終わり、少しばかり暖かくなって来た桜の舞う季節に二人してベランダへと出る。
煙草に火を点け、暗くなりかけていた夜の始まりの夜空を見上げ私は「今日は綺麗な月が出てるね」なんて彼へと言葉を掛けた。「ほんとだ…綺麗」うっとりと月を見上げる彼の横顔を何度見て来ただろう。「リム?」…「ん?」…「愛してるよ」穏やかに流れる時間に、「俺も愛してるよ」柔らかく光る月の下、私達はキスを交わした。これからも続いていくだろうこの幸せを嚙み締めるかのように、お互いに抱き締め合い何度も何度もキスを交わした。「これからも宜しくね」と彼へと伝えると「当たり前だよ、こちらこそ宜しくお願いします」…「うん」この幸せをいつまでも、いつまでも守って行きたいとそう願った。月明りの美しい夜、二人の誓いの様な言葉に、煙草の煙をゆっくりと吐き出し「さ、お風呂入ろう」と彼へと手を差し伸べた。月は常に私達を照らし続けるだろう、これから先もずっと…永遠を感じながら。アネモネのある部屋へと戻って行く。赤い色のアネモネの花言葉は「君を愛する」…きっと私は「君を愛し続けるだろう」この先もずっとずっと…。

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2024/06/22 16:32
うわあ最終章!!!!
長いお話 ありがとうございました
読むとあっという間なのですが
書いている方は 書いては直しを繰り返し
ここにたどり着くまでに きっと恐ろしいほどの年月が経ったことでしょう
そんなお話を無償で読ませていただき 本当に感謝しています

アネモネ 愛らしいお花ですよね
そんな花言葉があったのですね
小さく でもりっかりとした 大きな幸せ
ずっとずっと続きますように

私も幸せな気持ちでいっぱいです

ありがとうございました!!(*・ω・)*_ _)ペコリ



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