Nicotto Town



自作小説倶楽部6月投稿

「依頼人」

母がおかしくなったんです。
元々しっかりした人でシングルマザーになったのも余程の理由と決意があったのだと子供心に察せられる雰囲気がありました。それでも、時々寂しそうで、私は少しでも母の慰めになろうと勉強や家の手伝いを頑張りました。
やっと七歳になる私に母は学校で上手くいっているか、先生は頼りになるのかと詳しく聞くようになりました。もともとしつけや人付き合いには厳しかったのですが、母の取り調べのような質問と厳しいまなざしに私は困惑しました。そして、ある日、仕事帰りに私を迎えに来た母は校門にいた担任と短い立ち話をした後、無言で私の頭をなでて、私の左手をしっかりと握って歩きだしました。私は急にぞっとして母の顔を見上げました。母と目が合い、母はにっこりと私に微笑みかけました。
「どうしたの?」やっと、そう言った私に返って来た言葉は「何でもないわ」とそっけないものでした。それ以上母に掛ける言葉が私の中には無く。この時ほど自分が子供にしか過ぎないことを悔しく感じたことはありませんでした。
その日を境に母の夜の外出が増え、夜遅く酒と煙草の臭いをさせて帰って来るようになりました。
夏至が過ぎ、私は八歳の誕生日を迎えました。母と一緒に料理や支度をしてお祝いする場に新しい人間が加わりました。ハリーさんという中年の頼りなげな男性を母は昔の友達だと紹介しました。3人でごちそうとケーキを食べましたが、母もハリーさんも目が笑っていないことに私は気が付いてしまいました。砂で出来たかのようなケーキをやっとお茶で流し込んだ時、ハリーさんは自分が私の父親の友達だったことを話しました。そして父は悪人と戦った正義の人だとも。母は私にプレゼントを押し付けると子供部屋に追い払い、ハリーさんと私の父親のことで言い争いを始めました。
そして、ついに昨夜、母は帰って来なかったんです。探偵さん。お願い。母が出入りしていたバーはわかっています。誰と接触していたのかも、ハリー、いえハロルド警部に連絡を取って至急母を探し出してほしいんです。
母はずっと父を死に追いやった連中に復讐する機会をうかがって彼らを探っていたんです。すごい執念だけど正しい方法じゃありません。私のような子供を孤児にしていいはずありませんから。

俺は唖然として目の前の幼い依頼人を見つめた、思考がフリーズしそうになったが子供と思えぬ気迫のこもった目に慌てて行動を開始した。警察に連絡して、女の子を車の助手席に乗せたところで父親の名前を思い出す。飛び級で大学を卒業をして何故か警視庁の最前線で働いて殉職した伝説の人物だ。妻も同僚だったはずだ。
新たな伝説? いや、そんなことよりこのお嬢ちゃんにこれからも厄介ごとを持ち込まれるんじゃないか? 
様々な疑問が頭をよぎったが俺はハンドルを握り運転に集中することにした。

アバター
2024/07/04 07:51
つづきが気になる~
アバター
2024/07/01 23:18
連載でしょうか? サスペンスものの冒頭のような――



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