Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


深淵の中の蝶

第二章

私は隣人に言われるがまま、隣の部屋のインターホンを鳴らしていた。部屋の中から「どうぞー」と言う声が小さく聞こえていた。私はドアを開け、「お邪魔します…」と中へと入って行った。私は玄関で立ち竦んでいた。部屋の中は明る過ぎず暗過ぎずでもない明かりが心地良く灯っていた。隣人の男性は玄関に立ち竦んでいる私を見て、バスタオルを持ってきてくた。「取り敢えず、びしょびしょっすね、風邪引いちゃうんで拭いちゃって上がってください」…「あ…はい…ありがとうございます」そう言った隣人の眼は私と同じように光を失っている様にも感じた。私は隣人が言ってくれた様に、タオルで全身を拭き終え「…お邪魔します…」と部屋の中へと入って行った。隣人は若い様に感じた。私より5つ位は年下だろうか…まぁいいや…そんな事を考えても仕方ない。煙草を吸っていた隣人に「…タオル、ありがとうございます…」と手渡す。「いえいえ」そう言いながらタオルを受け取った隣人はどこかしら寂しげに見えた。
「あ、何か食いたいもんあります?」…「いえ…特には…」そんな会話から始まった隣人との会話の中、「なんかちゃちゃっと飯作りますね」そう言って「良かったら座ってのんびりしてってくださいよ」…「…はい」私は隣人の部屋のソファへと座り、こんなに飾る物によって部屋の雰囲気って変わるんだな、なんて何となく考えていた。隣人の彼の部屋には、笑顔の可愛らしい女性の写真が飾られていた。…彼女さんいるのかな…私を部屋に上げて良いのか…色々と考える事が出来る状況の中、「チャーハン作ったんで」と目の前に温かそうなチャーハンをそっと置いてくれた。隣人の彼も自分のチャーハンを運び、「一緒に飯、食えそうですね、良かった」…「ありがとうございます…」スプーンを渡されながら、一緒にご飯を食べる事となった。黙々と食べている中、彼は「俺…今日恋人を突然事故で失ったんすよね…」…「…え?」私は何処か、彼の眼に光がない理由が分かった気がした。「…そう…だったんですね…」…「飯食ってる時に話す事じゃないっすよね、すみません」…「…いえいえ、全然…」…「何て言うんだろ…人の死ってあっけないんすよね…突然この世からいなくなっちゃうんだなって…」ほんの少し、彼の眼が潤んだ様に見えた気がした瞬間だった。「…すみません…そんな大変な日に…私…」…「いやいや、死にたくなる気持ち分かるんで…俺もいっその事…なんて考えちゃいましたもん…はは」何処か悲し気に笑う彼に、私は少しばかり止まっていた心が動き出した気がしていた。「…あの、私で良かったら…なんでも話して下さい」チャーハンを食べる手は既に止まっていた私は、…少しでもこの人の助けになれれば…と思い始めていた。「…一つ、聞いても良いっすか?」…「はい…」…「なんで…死のうなんて…思ったんすか…?」…「あー…何だか、色々がどうでも良くなってしまって…」…「そうなんすね…」…「あー…えっとお名前…」…「悠って言います」…「…今、悠さんのお話聞かせて貰って…なんて言うか…もっとお話ししてみたいって…思いました」…「…久しぶりに心が動いた、というか…もし良ければなんですけど…」…「あー…ありがとうございます…すげー助かるっていうか…お姉さんの時間の都合の良い時で良いんすけど…」…「…あ、私由佳里って言います…」…「あ、由佳里さん…っすね、了解っす」…「もし、お互いの時間が合う時にたまにこうやって飯食いながら、話しません…?」…「…良いですね」大切な人を突然失った彼の悲しみはとても深いだろう…。少しでも彼の心の拠り所にでもなれたら、と不思議な感覚になっていた。「…あの、もし明日とか時間あるなら今度は私の部屋でご飯でも…どうですか…?」…「あ…ありがとうございます…明日は仕事休みなんで…俺は大丈夫っすけど、由佳里さんの予定が空いてれば…」…「あ、私は在宅ワークなのでいつでも大丈夫です」…「そうなんすね…それじゃあ18時とか…どうっすか…?」…「はい…それじゃあ、待ってますね…」…「あの…死のうなんて…しないで下さいね?」…「それは…お互い様です」そう答えて私は笑った。「ははは…そうっすね」私の笑顔につられたのかも知れない彼も笑って居た。

アバター
2024/07/14 14:52
えっ
思わずリアルで声が出てしまう展開でびっくりしました
同じ匂いがしたので 思わず声をかけたのかもしれないですね
良い流れでありますように
大人同士の出会いに私もドキドキしています



Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.