Nicotto Town


なるべく気楽に気楽に~!


深淵の中の蝶

第六章

隣人の彼は言葉を探すかの様に、少しずつ今の心境を話し始めた。「俺…恋人と6年一緒にいたんすよね…俺の中では結婚も考えてたんすよ…」…「そう…だったんですね」…「今日、葬式に行って…なんて言うんすかね…マジで恋人を失ったんだなって実感したというか…」…「一つずつで良いので、悠さんの頭の中、整理して行きませんか?」…「…ありがとうございます…」…「いえ、全然ですよ…なんと言うか…悠さんの力になれたらなって思ってます…」…「由佳里さん…優しいんすね…はは」…「いやいや…そんな事はないですよ…」…「なんて言ったら良いんすかね…上手く伝えられないんすけど…すげー好きだったんすよね…そんな存在の死が俺の中でいつか爆発するんじゃないかって…恋人を追いかけて俺も死んじゃうんじゃないかって…不安になっちゃたんすよね…多分」…「なるほどです…恋人さんの死を心から実感せざるを得ない状況だったのでしょうか…」…「…そうなのかもしれないっすね…でも俺は生きて行かなきゃいけない気もしてるんすよ…恋人の事を忘れない為にも…恋人はきっと俺の死を望むような人間じゃないんで…」…「恋人さんは…きっと悠さんに幸せになって欲しいと思ってるんじゃないですかね…突然の別れ方だったけど、悠さんに愛されていた事実があった訳ですし…」…「…俺に幸せになって欲しいと…思ってくれてるとは…思うんすけど…なんか煮え切らない感情っすかね…多分」私達は沢山の言葉を交わし、意見や考え方等の違いも認め合う様に、途切れる事の無い会話を続けていた。
私は気付くのには遅くになってしまった事を尋ねながら「あ、悠さん煙草吸います?私も吸うのでお気になさらずに…どうぞ」そう伝え、キッチンにあった灰皿を差し出した。「…あ、ありがとうございます…ベランダ借りても良いすか?」…「あ、はい…どうぞ」と私は彼の言われるが儘ベランダの窓を開けた。ひんやりと冷たい空気の中へと彼は吸い込まれるかの様に暗くなってしまった外へと溶け込んで行った様に私にはそう見えていた。何故か、彼から目が離せなくなってしまった私は彼の華奢な背中を見つめていた。夜空を見上げる様に上を向きながら煙草の煙を吐き出していた彼は、身体が震えていた。…泣いてる、と直ぐに気が付いた私は、咄嗟に彼の腕を掴んでいた。「…どうしたんすか?」…「あ…すみません…なんだか悠さんが消えちゃいそうに感じてしまって…」…「はは…由佳里さん、汲み取るの上手いっすね…」そう無理して笑って居る彼に対して私は一つの提案を出してみる事にした。「あの…もし良かったらで良いんですけど、
えっと…毎日お話したり食事したりしませんか?」…「あー…良いかもしれないっすね…由佳里さんさえ良ければ、っすけどね…」…「私は…悠さんともっとお話ししてみたいと思いました…変?ですかね…」…「俺は変だとは思いませんよ?是非ともお願いしたいくらいっすね」…「そ、それじゃあ私の方こそ、是非お願いします…」…「はい、お願いします…今日の所はそろそろお暇させて頂きますね」そう言って彼は私の部屋から自分の部屋へと戻って行った。勿論明日の約束も取り付けて。…明日は20時か、そんな事を考えながら私は寝る支度を始めた。「頼って貰っている事」が私に生きていて良いのかも知れないと、鏡に映った私の眼にほんの少しばかりの光が灯っている様にも見えて居た。
その日、私は甘過ぎる程の香水を纏い煙草を吸い眠りへと落ちて行った。

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2024/07/31 16:35
優し過ぎるお二人 なのでしょうか
恋人を亡くしてしまったお隣さん あまりに悲しい現実なのでしょうね
少しずつその悲しさが薄まっていきますように
主人公さんも とりあえず 今日を生きられますように

甘い香水 普段はあまり好まないけれど
今日は 今は とても好き ってことありますよね
大人にとって 甘いチョコみたいな感じなのでしょうか

二人ともよく眠れますように



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