僕のラブレター物語
- カテゴリ:自作小説
- 2024/08/05 06:12:47
岩井俊二監督の映画に「ラブレター」という作品がある。確か中山美穂が一人二役で主演して、東南アジアでは冬のソナタ程度のブームを引き起こしたという話しを、何かの雑誌で読んだことがある。
山で死んだ恋人の過去を、偶然出した手紙によって少しずつ知っていく話しで、同姓同名の藤井樹(いつき)という名の男女の、中学の3年間を同じクラスで過ごしたことによる悲劇(?)が、ユーモアを込めて描かれて、僕は、爽やかな印象の残る作品として記憶に残している。
山で死んだ恋人の過去を、偶然出した手紙によって少しずつ知っていく話しで、同姓同名の藤井樹(いつき)という名の男女の、中学の3年間を同じクラスで過ごしたことによる悲劇(?)が、ユーモアを込めて描かれて、僕は、爽やかな印象の残る作品として記憶に残している。
仮にその名を、渡辺薫という名前にする。僕と、その女の子の名前だ。
幸いにして、僕らの場合はラブレターの場合と違い、中学2年の時だけのことだった。
とにかく、名前が一緒なので、やはりいろいろ大変で、出席を取る時はそうでもないが、教師に授業の中で当てられた時など、やはり同時に返事をしたりして、クラス全員からひやかされることなど、けっこうあった。
黒板にあいあい傘で名前を書かれたりするのは可愛い方で、子どもまで勝手に生まれたことになったりしている落書きまであった。(子どもの名前も薫だったよ、確か。)
僕は中学時代、テニスに情熱を燃やしており、女性への興味はほとんど無いねというような顔を日常していたので、彼女をタネに意地の悪いイジメをされても、気にしないでいた。
彼女は、僕よりも成績の良い人で、クラブ活動はバレー部だった。僕はその頃まだそう背が伸びていなかったので、彼女は僕より少し身長が低いくらいだったと記憶している。
バレー部は室内での練習なので、屋外で練習している僕らとは直接顔を合わせることは無かったが、たまに体育館を覗くと、彼女のショートパンツの下の足がやけに白く、長く見えたのを覚えている。
そこで、とんでもないことが起きたのだ。
一匹の野良犬が、僕のズボンのポケットにあるアンパンをねらって、襲ってきたのだ。
よほど腹が空いていたのだろう。僕はあっという間にパンを取られ、おまけに、ズボンまでちぎられてしまった。
気がついたら、パンツ丸見えの状態になっていた。部活のユニフォームは学校にあり、取りに行くにもこのままの状態では取りにも戻れない。
最悪の状態で泣きたくなった時に、「薫くん、どうしたの」と僕の名を呼ぶ女性がいた。
クラブを終えた同姓同名の彼女が、そこに立っていた。僕は恥ずかしさを忘れ、「長パン、貸してくれ。」と言った。
彼女の長パンは、僕の足にピッタリで、「明日、返す。」と言って、僕は帰宅を急いだ。
彼女の長パンはやはり女の子の優しい匂いがした。僕は、恥ずかしさで顔が熱くなった。
家族以外の女性に初めてパンツ姿を見られ、それがこともあろうに、同姓同名の女の子にだった。
彼女との1年は、最悪の1年になった。
名前でからかわれた時など、彼女はいつも笑っていた。彼女の頭の中にはパンツ姿の薫くんの情けない姿が浮かんでいるのだ。
2年生も終わる頃、彼女は僕に言った。「パンツ姿の薫くんて好きよ。」
どういう意味だ、それは。
「裸の僕はもっと、ステキです。」